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[徳島/本家松浦酒造場]酒蔵を中心に地域活性化につなげる「酒蔵体験プログラム」を取材

体験型コンテンツに対する注目が高まる中、全国各地に存在する「酒蔵」を中心としたツアー体験が関心を集めつつある。本記事では2025年12月24日に一部募集がスタートした、徳島県鳴門市「本家松浦酒造場」のツアーガイドの様子をお伝えする。

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全国各地の酒蔵を活用したツーリズムが近年注目を集めている。お酒が造られる現場を見学し、現地の料理と合わせる。インターネットが発達した現代、「現地でしか体験できない価値」が求められている。

徳島県は阿波おどりや鳴門の渦潮、大塚国際美術館、剣山といった全国的にも有名な名所を持つにもかかわらず、「宿泊者数ワースト常連県」であるという。

こうした状況を脱し、全国から人を集められる場所にするために、本家松浦酒造場では酒蔵を中心とした「酒蔵体験プログラム」を企画。2025年12月より募集が開始されたツアーの内容、そして本企画の中心となる[本家松浦酒造場]の酒造りについて聞いた。

この方に話を聞きました

本家松浦酒造場 10代目蔵元 総杜氏 松浦素子さん
プロフィール
1964年7月18日生まれ。2008年のリーマンショックをきっかけに異業種から家業である酒造業の道へ進む。2011年に蔵元に就任。徳島の魅力をお酒を通して伝えようと酒蔵体験プログラム企画に取り組んでいる。

徳島県鳴門市唯一の酒蔵として

徳島県鳴門市に蔵を構える松浦酒造場は1804年(文化元年)に創業。現在、日本酒ファンに広く知られる「鳴門鯛」銘柄は1886年(明治19年)、鳴門海峡の激流を遡り、肉質が締まり脂が乗った鯛をイメージして命名された。

「かつては鳴門市には40軒近くの酒蔵がありましたが、現在も日本酒の醸造を続けている蔵は我々1軒だけになりました」

そう話すのは本家松浦酒造場 10代目蔵元 総杜氏の松浦素子さん。

「日本酒需要の減少とともに、リキュールなどの商品を展開していた時代もあったのですが、やはり日本酒蔵というイメージは大切にしたかった。そこで、蔵の中に直売所を作り、『鳴門鯛』銘柄の味わいを確認できるショールームとして運営することにしたんです」

直売所を作った当初は集客に苦労していたと当時を振り返る松浦さんだが、2015年に転機が訪れる。毎年イギリス・ロンドンで行われる世界最大級のワインコンクール「International Wine Challenge(以下、IWC)」の純米酒部門において唯一となる最高金賞トップトロフィーを受賞したのだ。

「最初は電話で連絡をもらったのですが、驚きが大きく何を言っているのか分かりませんでした。IWCの受賞を機に、日本酒造りに一層注力した結果、当時と比較して現在の製造量は倍以上になっています。同時に、ここまで足を運んでくださるお客様に日本酒の良さ、我々の取り組みをお伝えしつつ、ご自身で日本酒が選べるようなプログラムを展開するに至ったんです」

▲「鳴門鯛」銘柄が試飲できる呑み処

お酒が生まれた場所に来てほしい

本家松浦酒造場は2026年1月より大手旅行会社JTBとタッグを組み、これまで単独で展開していたプログラムをより広く訴求することになった。

「我々の蔵の徒歩圏内には、200年以上続く醤油蔵や、徳島の伝統でもある藍染めから発展した大谷焼の窯元といった文化的な伝統が色濃く残るエリアです。徳島県鳴門市は四国のゲートウェイという役割もありますので、色々な方にお越しいただき散策していただきたいですね」と松浦さん。

本家松浦酒造場の直売所には国内からの来訪者だけではなく、月間約200名の海外顧客も訪れるという。中でも韓国と徳島を結ぶ直行便があることから、韓国人比率が多くなっているというが、世界各国から多くの顧客が足を運ぶ。

「2025年11月現在、12カ国への輸出を行っており、アメリカが最も多い割合を占めています。『ブレードランナー2049』というハリウッド映画にて弊社の『鳴門鯛 吟醸しぼりたて生原酒』が小道具として使用されていました。こういった背景からも、アメリカの日本酒ファンの間では鳴門鯛銘柄の知名度は高くなっているようです」

▲ハリウッド映画にも登場した鳴門鯛銘柄(右から2番目)

世界のワイン産地では現地を訪れ、宿泊するワイナリーツアーが人気を博している。日本酒においても同様に、「このお酒を造った場所に行ってみたい」と思ってもらえるような日本酒を提供していきたいと松浦さんは話す。

見学から酒造りまで、幅広いコースを展開

提供されるコースは以下4タイプに分かれており、それぞれ顧客のニーズに応じた体験が可能となっている。

・梅:ラベルから味わう日本酒コース(税込6,600円)
・竹:五感で味わう日本酒探求コース(税込14,000円)
・松:蔵と美食を味わう日本酒マリアージュコース(価格未定、2026年1月公開予定)
・極:水ト米ト人で醸す日本酒コース(価格未定、2026年1月公開予定)

梅コース

梅コースでは案内人付きの蔵見学に加えて、「酒の寺子屋」として鳴門鯛の銘柄の比較テイスティングと共に、日本酒ラベルの用語解説が行われる。

酒蔵見学では蔵の歴史から建造物の説明などが丁寧に行われる。徳島のイメージが強い本家松浦酒造場であるが、そのルーツは意外にも長崎県に端を発すると、直売所「ナルトタイの店」店長の若林文与さんは話す。

「450〜500年ほど前に長崎県周辺の海で活動していた海賊の一派が、仕事を求めて300年ほど前にこの地に移住してきたんです。当初は米問屋や両替商、材木、藍染めの藍を販売したりと様々な商売をやっていたようです。その後、取り扱っていた米から日本酒を造り出したという流れになります」

本家松浦酒造場の敷地には、江戸時代から残る建物が多く残されており、現在は5棟が登録有形文化財に指定されている。その一部をDIYで改装しつつ蔵の活動、そして日本酒に関する発信を続けることで、現在では年間1万人を超える顧客が訪れる観光地として成長していったのだ。

▲蔵の歴史を解説する若林文与さん

若林さんが講師を務める「酒の寺子屋」では、精米歩合違いによる香味の変化、「純米・醸造アルコール添加」「生・火入れ」「濾過・無濾過」など多岐にわたる比較試飲を体験。

分かりやすい解説を通して理解を深められる講座となっており、これまで地元の飲食店やホテルマンも受講してきたという。

▲数種類の鳴門鯛銘柄を通して日本酒の香味を比較できる

竹コース

竹コースでは前述した梅コースの内容に加えて、「発酵タンクの見学」が行える。

実際の醪(もろみ)を間近で確認し、その音をリアルに体感できる機会は早々ない。松浦酒造場の仕込み時期は例年9月〜5月となるが、発酵中の醪を体感できる時期は10月〜5月に限定される。

発酵の「音」をより間近で体験してもらうため、松浦酒造場は専用のマイクとカメラを用意。参加者は微生物が生み出す「プツプツ」といった発酵の音をはっきりと聴くことができる。

▲実際に醪の音声を聴いている様子

松コース

松コースは梅・竹コースの内容に加えて、鳴門鯛銘柄と鳴門の食材を活かしたディナーが楽しめる宿泊プラン。高級リゾートである「アオアヲナルトリゾート」内のレストランを食事会場としており、フレンチとのペアリングが楽しめる。

日本酒は地の食材を合わせてこそ実感できる価値がある。酒蔵見学後に味わう一杯は、従来のペアリングディナーとは全く異なった体験になるはずだ。

極プラン

4コースの中で最も豪華な内容となる極コースでは、洗米から麹造りといった酒造りの主要工程を実際に体験し、瓶詰めからラベル貼りを行った「自分の日本酒」を持ち帰ることができる。

工程ごとに4日間にわたり酒造りに携わるため、長期滞在もしくは各日で酒蔵に訪れることができる顧客が対象となる。単なる見学にとどまらず、「造り手との時間を共有」できる唯一無二の体験が特徴だ。

実際に酒造りに参加し、自らが醸した味わいを楽しめるプランとなるため、国内外の日本酒ファンからの注目が期待される。

滞在時間を伸ばし、宿泊につなげる

今回スタートする「酒蔵体験プログラム」に関する意気込みについて、松浦さんは次のように話す。

「徳島県は全国でも通過県ナンバーワンと、日本の中でも宿泊率が最も低い県として有名です。滞在時間を伸ばし、宿泊につなげていくきっかけに我々の酒蔵がなれればと考えています。現在、蔵での宿泊プランも準備しておりますので、『松コース』『極プラン』への参加も蔵で完結できるようになります。徳島は食べ物も美味しいし、隠れた秘境なんですよ」

地方での飲酒体験を前提とすることから、世界のワイナリーは宿泊施設を併設した滞在型のツーリズムが一般的となっている。現在、日本酒の世界においても、試飲や蔵見学に宿泊を組み合わせた体験型プランが全国各地で広がりを見せている。

世界中の情報に気軽にアクセスできる時代だからこそ、「その土地でしか味わえない体験」には、これまで以上に大きな価値が生まれている。日本酒という伝統産業を軸にしたこうした取り組みは、国内外から高い注目を集めるはずだ。

本家松浦酒造場がJTBとタッグを組み展開する「酒蔵体験プログラム」。日本酒の価値を「飲むもの」から「体験する文化」へと拡張し、徳島県鳴門市の活性化に貢献することを期待したい。

本家松浦酒造【酒蔵体験プログラム】HP


ライター:新井勇貴
酒の文化と物語を伝えるフリーライター。大学卒業後に京都市内の酒屋へ就職し、食品メーカーでの営業を経て独立。(Webサイト
保有資格:J.S.A. SAKE DIPLOMA・ワインエキスパート/SSI 酒匠・日本酒学講師

本家松浦酒造場

住所
徳島県鳴門市大麻町池谷字柳の本19番地
TEL
088-689-1110
HP
https://narutotai.jp/
営業時間
9:00~17:00

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