【対談】異業種の視点で切り拓く、日本酒の新たな可能性「酒輪®」×「Sake World」
日本テクノロジーソリューションの岡田耕治社長と、リーフ・パブリケーションズ代表、中川真太郎の対談を通して、両社が進める日本酒業界への取り組みを紹介。異業種から日本酒業界へ参入したからこそ実現できた内容、そして日本酒業界に感じる課題や今後の展望をお伝えする。

2024年、歴史ある旅行ガイドブックの老舗『地球の歩き方』と、パッケージ、メディア、アライアンス事業を展開する日本テクノロジーソリューション株式会社(以下、日本テクノロジーソリューション)が手を組んだ。その名も「酒輪®(しゅりん)」プロジェクト。日本酒とNFT技術の融合を目指した取り組みからスタートし、今では『地球の歩き方』と連携した酒蔵と手を組み、日本酒を通じた“つながり”を生み出している。
一方、オリジナルブレンド日本酒体験施設となる「My Sake World」を運営する株式会社リーフ・パブリケーションズ(以下、リーフ・パブリケーションズ)は、1996年に創刊した京都のタウン情報誌『Leaf』に端を発する。現在は同施設やWebメディア「Sake World」の運営、日本酒ECサイトの「Sake World NFT」、さらには酒蔵の買収などを通して日本酒業界に貢献している。
ラベルを軸にした展開、そして「My Sake World」によるブレンドなど、新しい視点でのアプローチを進める両社の挑戦と展望を追いながら、日本酒のさらなる可能性に迫る。

日本テクノロジーソリューションの岡田耕治社長(右)リーフ・パブリケーションズ代表、中川真太郎(左)
日本テクノロジーソリューションは、1976年に創業し、1981年に設立。当時は岡田電気工業株式会社としてブラウン管装置の設計、製作を行っていた。2001年より自社ブランド商品として「熱旋風式シュリンク装置TORNADO®」を発売。本装置は日用品や食品だけでなく、全国各地の日本酒パッケージにも採用されている。2004年に現在の社名へ変更後は「優れた技術を優れたビジネスに」をキャッチフレーズに、技術の市場化を事業の核に運営を続ける。
2022年にはNFT技術を活用して日本酒を発売する「酒輪®」プロジェクトを発足。デジタルラベルで日本酒を先行発売する仕組み構築へ向けて奔走した。そして2024年、老舗旅行ガイドブックである「地球の歩き方」とコラボした日本酒をリリース。2025年3月の取材時点では12の都道府県が展開しており、今後の展開に期待が寄せられている。
INDEX
「どうだい?」というコミュニティから生まれた「地球の歩き方オリジナル日本酒」
―日本テクノロジーソリューションが手掛ける「酒輪®(しゅりん)」プロジェクトについて教えてください。
岡田社長「『酒輪®』というプロジェクト名は弊社が手掛ける『シュリンク包装』から名付けました。当初は、現在のSake World様と似ていて、2022年にNFT(※1)化したデジタルラベルを通して日本酒を販売、企画するプロジェクトとしてスタートしたんです。まずは灘五郷を中心に声をかけていったのですが、NFT技術の説明が非常に大変で(笑)非常に苦戦することが想定されたので、プロジェクトの内容を精査しつつ、別の側面から日本酒業界への貢献方法を検討しはじめたんです」
※1:Non-Fungible Tokenの略称。代替不可能なトークンを意味しており、コピーや改ざんができないデジタルデータを指す。
―「地球の歩き方オリジナル日本酒」はそうした流れで生まれた企画なのでしょうか?
岡田社長「いえ、この企画については偶然のご縁で生まれたといえます。もともと、全国の日本酒と神社をまとめた本を出版し、全国の日本酒マップが作れるという企画を考えていました。実現させるにあたり、大同生命さんが運営する『どうだい?(※2)』という、社長同士のコミュニティサイトの1周年記念セミナーへ参加することにしました。そこで偶然にも、当時地球の歩き方編集長だった宮田崇さんにお会いできたので、思い切ってこの話を相談したんです。しかし、そうした本はすでに存在しており、会に参加して5分で私のプランは崩れたんです(笑)その後色々な話を進めていく中で、弊社のシュリンク包装の話題になり、そこで『地球の歩き方の特製ラベルとして日本酒を展開できる』と伝えると、『ぜひ作りましょう!』と話がすぐにまとまりまして。地球の歩き方の発売日と合わせて展開することになり、まずは広島からスタートしたんです。最終的には47都道府県を制覇できればと思っています」
※2:大同生命が運営する経営者向けのオンラインコミュニティサイト。経営者同士で悩みや情報を共有したり、支援サービスを利用したりできる。
―コミュニティでの出会いが、偶然の企画につながったのですね。
岡田社長「1999年にテレビのブラウン管の検査機器を製造する会社を父から引き継いだのですが、地デジ化の流れと共に5年でなくなってしまったんです。厳しい状態に直面している業界を経験した身として、『地球の歩き方』がコロナ禍で売上が9割減になったことや、このままだったらなくなってもおかしくないという宮田さんの話に強く共感したことも大きいですね」
―各県で選定している酒蔵はどのように選定しているのでしょうか?
岡田社長「酒蔵については、学研プラスが出版している『知れば知るほどおいしい!日本酒を楽しむ本』から選択しています。電話営業を通してコンセプトを説明し、ご理解いただいた酒蔵様に協力いただいています。
また、我々の社名である日本テクノロジーソリューションは、『日本にある技術の課題を解決する』ことを目的に2004年に社名変更しました。日本酒は昭和後期のピーク以降、年々出荷量が落ち込んでいる。V字回復とまでは言いませんが、少しでも日本酒業界の向上に貢献できればと考えています」
中川社長「『地球の歩き方』という知名度のある書籍とタッグを組んでいることで、酒蔵からの協力も得やすそうですね」

2024年11月に行われた暮らしと遊びの総合展示会「FIELDSTYLE EXPO」にも出展。
日本酒ブレンドで誰もがクリエイターになれる
―My Sake Worldの施設についてご紹介ください。
中川社長「日本酒のブレンドを通して、誰もがクリエイターになれることをコンセプトにした施設です。2023年より弊社が展開する『アッサンブラージュクラブ』というプロジェクトが発端であり、こちらは京都の酒蔵3蔵とのコラボを元に、各蔵の日本酒をブレンドして造った商品になっています」
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岡田社長「他の酒蔵の日本酒とブレンドすることについては問題ないのでしょうか?」
中川社長「弊社は『Leaf KYOTO』という雑誌を展開する出版社であったこともあり、もともと京都の酒蔵様とは良好な関係を築いていました。コロナ禍で外食産業が厳しい状況になり、日本酒の需要も落ち込んでいる中、ブレンドという新たな価値を付け加えて展開しようという話からスタートしたこともあり、了承をいただいています。現在は全国55蔵からブレンドの了承を得ている状況ですね。当初は一般顧客向けのブランドとしてスタートしましたが、現在では飲食店やホテルのオリジナル商品なども展開しています」
―全国の酒蔵とのつながりはどのように構築していったのでしょうか?
中川社長「『Sake World NFT』というマーケットプレイスを立ち上げるにあたり、日本全国の酒蔵へNFTの説明とともに営業をかけて回りました。その結果、約200蔵からの了承をいただきまして、それぞれにブレンドに対する許可を確認していった流れです。NFTという新技術については認知の途中ではありますが、多くの酒蔵さんは『売れるのであれば』という期待から了承していただいております」
岡田社長「わたしも一度NFTをフックに営業したから分かりますが、その成果は本当にすごいことだと思います。出版業界から日本酒業界へ参入したきっかけは何でしょうか?」
中川社長「コロナ禍をきっかけに新たな新規事業を検討する中で、日本酒がユネスコ無形文化遺産へ登録されるという流れを耳にしました。こうした状況から出版に続く柱を作り、日本酒業界へ貢献するために参入したという流れです。また、社内には日本酒に詳しく、業界へのコネクションを持っている人材がいたことも後押ししましたね」
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既存の日本酒に付加価値を与える
岡田社長「『地球の歩き方オリジナル日本酒』を取り扱い、改めて物を売る大変さを実感していますがいかがでしょうか?」
中川社長「実際、大変ですね(笑)お酒を飲む人口も減っている中、廃業を選択される酒蔵も少なくありません。こうした状況の中、日本酒のブレンドという新たな可能性を提案していますが、どうしても価格面では通常の商品よりも高額になってしまいます。価格と価値のバランスを伝え、理解してもらうことは簡単ではありません」
岡田社長「ある程度壁は超えた実感はありますか?」
中川社長「まだ道半ばですが、この壁を乗り越えるための一環として、以前岡山県の酒蔵を買収し、これまで外部へ委託していたブレンド作業を内製化することに成功しました。これにより、市場価格に合わせた価格設定に加え、商品ラインナップの拡充もスピーディに行えると考えています」
―日本酒の販売促進につながる施策や課題についてどうお考えでしょうか?
岡田社長「我々も日本包装機械工業会といった業界がありますが、やはり業界の中で閉じこもっていると、過去の前例を見ながら先を考えてしまいがちです。商売は顧客に向かないといけない。『業界は過去、顧客は未来』という言葉を聞いた時は非常に感銘を受けました」
中川社長「ワインを比較した時、日本酒はその年によっての価格のブレがほとんどありません。酒造技術によって品質の均一化が実現する点は日本酒の素晴らしい部分ですが、逆を言えば価格が上がりにくいということになる。『だれがブレンドしたか』『何をどうブレンドしたか』という付加価値を与え、模索することで幅のある販促につながるのではと考えています」
―「酒輪®」が展開している古酒も日本酒へ付加価値を与える1つの選択肢ですね。
岡田社長「2025年は阪神・淡路大震災から30年を迎える年になります。神戸に本社を構える弊社として何かすべきことを考えている時、偶然知り合いだった酒蔵様より当時の古酒が残っている話をお聞きしました。すでに海外のバイヤーが高額で購入する話を持ちかけられていたそうですが、われわれに売っていただくことになり、30年を迎える2025年に発売することになりました。30年という数字にあやかり30本限定、30万円という価格を設定し、次の30年につなげられるような展開を行っています。古酒という年月を重ねたストーリー性に価値を感じる方は一定数いらっしゃるはずなので」
中川社長「弊社で取り扱っていた50年古酒は50万円で設定していました。国内外の供給量を維持しつつ、価格を上げることでバランスをとることは重要ですね」
岡田社長「たくさんの人がそう感じていると思います。しかし、圧倒的なブランド力がないとなかなか難しい。このあたりは今後の課題だと感じます」
ラベル買い需要を掘り起こす
岡田社長「このアッサンブラージュクラブは何種類のブレンドなのですか?」
中川社長「こちらは3蔵8種類のブレンドです。純米大吟醸といったお米を磨いた日本酒に、少しだけ古酒を加えたレシピになっています。新たに内容もブラッシュアップする予定で、パッケージの重要性も感じています」
岡田社長「ぜひ、シュリンクでラベルを作りましょう(笑)やっぱりパッケージから得られる印象は大きいと思います。ジャケ買いのようにデザインで決めるという選択肢が合ってもいいですよね」
中川社長「ラベルが難しいと若い人がなかなか入ってこれなくなりますしね」
―地球の歩き方オリジナル日本酒は「都道府県」がキーワードになっているので入りやすいかもしれません。
岡田社長「酒蔵の名前を前面に出したほうが良いのではという案もありましたが、やはり地域に寄り添い、一度訪れてみたい、もしくは訪れた思い出と共に楽しんでほしいと思っています」
「酒の価値を最大化」させ、技術を商売に結びつける
―両社が掲げる今後の展望を教えてください。
中川社長「弊社のミッションは『酒の価値を最大化する』です。そのためのブレンドですので、今後は著名人やインフルエンサーが考案したブレンドレシピを共有してもらうなど、推し活的なアプローチも検討しています。また、誰しもがオーダーメイドの日本酒を造れますので、自分だけのオリジナルを生み出すという観点に日本酒も持っていければと思います。既存の酒蔵様へオリジナル日本酒の製造委託は可能ですが、少なくとも100本からなどロット数が多くなる。弊社のブレンドであれば24本から対応できますので、飲食店様などの導入ハードルも低くなっています。お店特製のお酒を提供すればキャッチーですし、客単価向上にもつながる。『My Sake World』で提供するブレンド体験についても、すでに多くの人に楽しんでいただき、自分好みの1本を生み出してもらっています。提携する酒蔵の数、出荷する日本酒の量が増えるにつれて、いい循環が生まれるはず。こうしたアプローチで酒の価値を最大化できればと思っています」
岡田社長「弊社の考え方は『優れた技術を優れたビジネスにしよう』です。技術があってもビジネスにつながらない事例はたくさんあります。日本酒はまさにそこに当てはまっていると感じています。伝統的であり、高い醸造技術を持っているにも関わらず、商売に結びついていないということは、何かの構造が間違っているのかもしれません。そうした課題を解決し、お手伝いできることがあれば一番いいなと思っています。『酒輪®』という名の通り、『酒の輪を人の輪に』というキャッチでやっているのですが、どうだいからスタートした地球の歩き方をきっかけに、今回の対談のように色々なつながりが生まれればいいなと思っています」
伝統と革新が交差する場所にこそ、新たな価値が創造される。「酒輪®」や「My Sake World」が描くのは、従来の日本酒の枠を超えた、日本酒を通じた“つながり”の風景だ。業界の垣根を越えた取り組みがシナジーを生み出し、日本酒全体に確かな変化をもたらしていくだろう。
ライター:新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・SAKE DIPLOMA・SAKE・ワイン検定講師・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。