酒蔵に聞く

ブレンドが切り拓く新しい日本酒の未来[梅乃宿]が提案する新ジャンル「果本酒」

奈良県葛城市に本社を構える[梅乃宿酒造株式会社]は、2025年7月24日、日本酒と果汁を掛け合わせた新ジャンルのSAKE「果本酒(かほんしゅ)」を新たにリリースした。 日本酒の個性を残しながら、果汁の香りと甘みを調和させた本商品には、同社ならではの技術と想いが込められている。

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1893年(明治26年)に創業した[梅乃宿酒造]は、「伝統と革新」を理念に掲げ、日本酒にとどまらずさまざまな商品を展開してきた。

現在では「梅酒」をはじめとするリキュールの印象が強いが、リキュールや焼酎の製造免許を取得したのは2001年と、同社の長い歴史の中では比較的新しい取り組みである。それにもかかわらず、「梅乃宿の梅酒」や「あらごしシリーズ」、「赤ポン・白ポン」、近年話題となった「大人の果肉の沼シリーズ」など、数々のヒット商品を生み出してきた。

本記事では、そんな梅乃宿酒造が発表した「果本酒」の新商品発表会の模様をお届けする。同社がこれまでに磨いてきたブレンド技術を活かし、これまでにない新しいスタイルの「SAKE」が誕生した。

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梅乃宿酒造株式会社 代表取締役 CEO 五代目蔵元 吉田佳代さん
プロフィール
大学で経営学を学んだ後、総合商社に就職。2004年に家業である梅乃宿酒造に入社し、2013年に社長に就任する。日本酒だけではなく、果実などを贅沢に使った日本酒リキュール「あらごしシリーズ」やポーションタイプのお酒を開発するなど、新しい取り組みに次々と挑戦し続けている。

新参者の気持ちで新しいことにチャレンジする

発表会の冒頭で、代表取締役CEOの吉田佳代さんは次のように語った。

「梅乃宿酒造は2025年で創業133年目を迎えます。日本酒業界では、創業から200~300年の歴史を持つ酒蔵も多く、同社は若い部類に入ります。そのため、創業当初から“新参者”の気持ちで、新しいことにチャレンジする姿勢を経営方針として掲げてきました」

本来、日本酒は冬場に製造されるものであり、かつては蔵人も季節雇用が一般的だった。しかし、時代の変化に伴い、若手社員を年間雇用する体制に変わったことで、春から夏にかけての業務内容を新たに検討する必要が生じたという。

「夏場にできることを考えたとき、着目したのが“梅酒”でした。梅の実は5~6月に収穫の時期を迎えます。一般的にはホワイトリカーなどの焼酎で漬けるのが主流ですが、当社では日本酒仕込みの梅酒という独自の発想で商品化に踏み切りました」

この取り組みは、ちょうど訪れた梅酒ブームの追い風もあり、同社のヒット商品となった。売上も順調に拡大していく一方で、製造工程で大量に出る“漬け終わった梅の実”が、新たな課題として浮上した。

「本来、梅の実は産業廃棄物として処分していたのですが、まだ食べられるものを捨ててしまうのは、もったいなくもあり、心苦しくもありました。そこで、梅の種を取り除いて果肉をすりつぶし、梅酒と一緒に楽しめるようにしたのが『あらごし梅酒』の始まりです」

現在では「あらごし」シリーズとして、梅のほか、ゆず・桃・みかん・パインなど9種類を展開しており、いずれも人気を集めている。

このように、常に柔軟な発想で新たな道を切り開いてきた梅乃宿酒造は、創業130年を迎える節目の年に、最新設備を備えた新蔵へと移転した。「驚きと感動で世界中をワクワクさせる」をミッションに掲げ、今もなお精力的に新商品開発に取り組んでいる。

日本酒のフルーティ感を強調した新感覚SAKE

現在、日本酒の国内出荷量は年々減少傾向にある。いわゆる「日本酒離れ」が進む要因について、梅乃宿酒造は「アルコール度数の高さ」や「味や香りが苦手」といった声が背景にあると分析している。

「日本酒離れが進行するなかで、私たちは日本酒の新しい価値を創造したいという思いから、新感覚のSAKE『果本酒(かほんしゅ)』を開発しました」と吉田さんは語る。

そのうえで、「果本酒」の開発におけるこだわりとして、以下の5つのポイントを挙げた。

・日本酒と果汁のみを使用
・純米大吟醸を使用
・香料不使用
・日本酒と比較して低いアルコール
・ブレンドロジー®で実現した味わい

同社が130年にわたって培ってきた伝統を背景に開発された「ブレンドロジー®」は、これまでも数々のヒット商品を生み出してきた技術である。「BLEND(調和)」と「OLOGY(理論)」を組み合わた独自の単語であり、梅乃宿酒造の緻密な技術が表現されている。

「果物のような香りを持つ日本酒はこれまでもありましたが、味わいの面ではどうしても“日本酒らしさ”が残ります。『果本酒』は、日本酒と果汁の組み合わせによって、香りも味わいも“本当にフルーティな日本酒”を目指しました」と吉田さん。

開発では、日本酒と果汁のバランスを0.1%単位で調整しながら、1年以上にわたる試行錯誤が続けられた。ブレンドを担当したマーケティング部 企画・開発課長の大川篤史さんは、開発の舞台裏について次のように語る。

「まずは、ベースとなる日本酒と、ブレンドする果汁の組み合わせがどれほどマッチするかを見極めるところからスタートしました。果汁は約10種類、日本酒は精米歩合や酒米の違いなど、複数のパターンを比較検討しながら候補を絞り込んでいきました」

試行錯誤の結果、ベースには「雄町(おまち)」を使用した純米大吟醸が採用された。また、果汁には、日本酒に多く用いられる“フルーティな香り”の代表例である「麝香葡萄(マスカット)」と「ライチ(茘枝)」が選ばれた。

元の純米大吟醸はアルコール度数15%だが、果汁と加水のバランスによって、「果本酒 麝香葡萄(マスカット)」は8%、「果本酒 茘枝(ライチ)」は9%に調整されている。アルコール度数を抑えることで、飲みやすさ(ドリンカビリティ)を高め、日本酒の新たな市場の開拓につながることが期待されている。

ブレンドによって生まれる新たな香味

「『ブレンドロジー®』は足し算ではなく掛け算です。素材の組み合わせで新たな可能性を引き出し、美味しさを最大限に表現します」と吉田さんは説明する。

「果本酒 麝香葡萄(マスカット)」には、長野県産のシャインマスカットとオーストラリア産のマスカット果汁を使用。それぞれの特徴を活かすため、比率や組み合わせが慎重に検討された。口に含むとマスカットの華やかな香りと味わいが広がり、後味には日本酒らしい米由来の優しい甘みが残る。“香りも味わいもフルーティな日本酒”というコンセプトを見事に体現した1本だ。

一方「果本酒 茘枝(ライチ)」には、南アフリカ産のライチ果汁を採用。ライチ特有の甘みと酸味、そして仄かな渋みが絶妙なバランスで共存し、まるでゲヴュルツトラミネールを使用した甘口ワインを思わせる仕上がりになっている。新たな日本酒の需要を創出するとともに、ワインが似合う食卓でもその存在感を発揮するだろう。

発表会では、果本酒のベースに使用された雄町の純米大吟醸も提供され、比較試飲が行われた。単体でも非常にフルーティで、リンゴやメロンを想起させる吟醸香が楽しめるが、果汁をブレンドすることでまったく新しい味わいへと進化する様子が印象的だった。

本商品が想定する主なターゲットは、「スパークリングワインや甘口のお酒が好きだけれど、日本酒にもチャレンジしてみたい」という層。華やかな香味と飲みやすさを兼ね備えた“果本酒”は、日本酒の新たな入口としての役割を果たすはずだ。

近年では、元ドン・ペリニヨンの醸造責任者リシャール・ジョフロワ氏による「IWA5」や、シャンパーニュの名手レジス・カミュ氏による「HEAVENSAKE」、さらには「Sake World」の「Assemblage Club」など、日本酒のブレンドによる新ブランドが相次いで登場している。

こうした流れの中で、「日本酒×◯◯」という新たな掛け算は、これまでにない市場を切り拓く可能性を秘めている。果本酒は、その先駆けとしてさらなる注目を集めていくだろう。

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ライター:新井勇貴
日本酒学講師・酒匠・SAKE DIPLOMA・ワインエキスパート
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

梅乃宿酒造株式会社

梅乃宿酒造株式会社

創業
1893年(明治26年)
代表銘柄
「葛城 純米大吟醸」「あらごし梅酒」「梅乃宿の梅酒」
住所
奈良県葛城市寺口27番地1Googlemapで開く
TEL
0745-43-9755
HP
http://umenoyado.com/
営業時間
直営店10:00〜18:00
定休日
不定休

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