豊富なラインアップが魅力![渡辺宗太商店/福島県]に聞く、酒どころ会津のおすすめ銘柄
全国新酒鑑評会で9年連続金賞受賞数1位に輝いた福島県。中でも酒蔵が集中する会津の地で、地酒専門店[渡辺宗太商店]を営む渡辺宗太郎さんに話を聞いた。

JR会津若松駅から徒歩8分。国道に面した通りに立派な日本建築の店舗が建つ。
地酒専門店[渡辺宗太商店]だ。
吹き抜けが開放的な広々とした店内にはショーケース一面の日本酒や地元の名産品、お酒を楽しむグッズが並ぶ。お昼時には蕎麦の提供も行うという中2階で、代表の渡辺宗太郎さんにインタビューした。
この方に話を聞きました

- 有限会社渡辺宗太商店 代表 渡辺宗太郎さん
-
プロフィール会津若松市出身。[渡辺宗太商店]4代目。高校卒業後、北海道ワイン株式会社で数年間の修業を経て1999年、店を継ぐために会津若松に戻る。現在は代表として酒蔵との関係構築に力を入れる。
圧巻の県内酒ラインアップ
木の温もりが感じられる、古材を使った建築が印象的な[渡辺宗太商店]。元々はお菓子の卸・小売り店だったが、約20年前に店舗前の道路の拡張工事を機に建て直し、酒の専門店へと舵を切った。
1階の他に半地下と中2階のある店内には県内外の日本酒に加え、焼酎やリキュール等、多数のアルコールが揃う。また、甘酒や塩麹、味噌、ジャムといった地元・会津の加工食品や酒器も扱うなど、幅広いラインアップが魅力だ。特に半地下の冷蔵ケース一面にずらりと並ぶ県内酒の数々は圧巻。
―どういったポイントを重視して仕入れるお酒を選んでいるのでしょうか?
渡辺さん「お酒が美味しいことに加えて、造っている人が尊敬できるかどうかです。うちでは酒蔵との直接取引と卸を通す取引の2通りの仕入れ方がありますが、直接取引をする蔵は全て足を運んで蔵元や杜氏に会うようにしています。直接会ってもその場で取引が決まるということはなく何回か足を運んだりして、納得のいくまで話し合いをしてから取引をするようにしています。」
―酒蔵との関係構築を大切にされているのですね。
「最近の日本酒はレベルが高く、どれを飲んでも美味しい。そんな中でお客様に選んでもらうには、その蔵の味わいや、ストーリーに共感してもらうことが必要です。若い蔵元達とは、それをどう作るのかを一緒に考えています。日々店頭でお客様と接しているので、蔵元の考え方とお客様の考え方のギャップを感じた時などは、蔵元に伝え一緒に考えたりしています。」
酒どころ会津の日本酒の特徴とは
「福島県は全国で4番目に多い約60の酒蔵があり、全国新酒鑑評会では9年連続で金賞受賞数第1位という記録を持つ日本有数の酒どころです。特に会津は、冬に気温が下がることや良質な軟水が取れること、米作りが盛んなことなどの酒造りに適した条件が揃い、県内の酒蔵の約半数が集中しています。」と語る渡辺さん。
―会津のお酒の特徴は何ですか?
「海から離れた会津は、海産物が乏しく保存食文化が発達した地域なので、基本的に料理の味付けは濃いめが多いエリアです。その食文化で育った人間が造ったお酒は必然的に濃いめの味わいになりますよね。」
―その土地の料理に合うような味ということですね。
「はい。ひとことで言うと”芳醇旨口”です。新潟の”淡麗辛口”の反対ですね。綺麗な旨味と透明感があり、余韻が長めです。酒質ではやや甘口のものが多いと思います。」
―冩樂や飛露喜といった、会津の有名銘柄にもそのような印象があります。
「そういった全国的に有名な酒蔵の存在に加えて、最近の会津では蔵に戻ってくる若手が増えています。新しい世代の蔵元も基本的には会津らしい味わいのお酒を造る人が多いと思いますが、世の中の流れに合わせてアルコール度数を抑えたお酒が増えています。単にアルコール度数を下げるだけだと抑揚のない味わいになってしまうので、酸や甘味を使ってどうバランスを取るのかという点は皆さん工夫されていますね。」
この時期だけのおすすめ銘柄3選
渡辺さんに新酒が多い、この時期ならではのおすすめ銘柄を尋ねてみた。
會津宮泉/宮泉銘醸株式会社(福島県会津若松市)
「『冩樂』が有名ですが、地元向けブランド『會津宮泉』も有名コンテストで受賞歴のある実力派です。『會津宮泉』は『冩樂』より製造量が少ないので、『冩樂』の製造量では足りないお米が使えるなど『冩樂』ではできない・やらないことに敢えて挑戦している銘柄です。左端は定番の純米酒ですが、この時期限定で搾りたての生酒になっています。」
(左端)會津宮泉 純米酒 初しぼり 生酒 1,788円
(中央)會津宮泉 吟醸 1,991円
(右端)會津宮泉 純米吟醸 山酒4号 うすにごり 2,211円
天明/曙酒造株式会社(福島県会津坂下町)
「新酒はそれほど種類を造らない蔵が多いですが、『天明』は蔵元が挑戦したいテーマが沢山ある銘柄なので、新酒の『天明 純米生酒 中取り』を5種類も出しています。原料米違いで造っていて、その米に合うように酵母の種類も変えています。『天明』は低精白・低アルコールの方向性を打ち出しているので、それに沿ったお酒が多いですね。」
(左から)
天明 純米生酒 中取り 零号 瑞穂黄金65 1,694円
天明 純米生酒 中取り 壱号 五百万石70×山田錦50 1,815円
天明 純米生酒 中取り 弐号 美山錦65×山田錦50 1,892円
天明 純米生酒 中取り 参号 亀の尾80×山田錦50 1,815円
天明 純米生酒 中取り 肆号 雄町65×山田錦50 1,650円
会津娘/株式会社髙橋庄作酒造店(福島県会津若松市)
「酒蔵が持つ自社田の圃場ごとに、そこで育った米だけを使って醸したのが左の『会津娘 穣』シリーズです。土壌や日当たり、風当たりが異なる圃場ごとの個性を楽しめます。右は当店オリジナルの『会津娘 上汲み』です。定番の芳醇純米酒は協会9号系酵母を使用していますが、本商品は10号系酵母を使用し、よりキメの細かい濃厚な旨味が味わえます。」
(左)会津娘 穣 つちや 亀の尾 2,420円
(右)会津娘 芳醇純米酒 上汲み瓶火入れ 1,898円
会津に足を運んでもらうために
取材中も途切れることなくお客様が訪れ、お酒の特徴についてスタッフの説明を熱心に聞いたり、おすすめの銘柄を購入したりしていた。家族連れの地元客らしき人が多かったのも印象的で、地域に愛されている店だということがよく分かる。取材の最後に、これから挑戦したいことを聞いた。
「お客様に来てもらえる店作りを継続していきたいと思います。オンラインでもお酒を簡単に買えるようになりましたが、お酒が一番美味しいのは、造っているところに行ってその土地の食べ物と一緒に飲んだ時だと思うのです。この店が、皆さんが会津に足を運ぶきっかけになったら嬉しいなと思います。その輪が大きくなって、世界中から、会津にお客様を呼べたら嬉しいですね。」
直接仕入れる蔵には全て足を運び、造り手との対話を欠かさない渡辺さん。豊富な品揃えの裏には酒蔵との地道な関係構築の積み重ねがあった。会津のお酒・風土・人を知り、その魅力を伝えたいと願う[渡辺宗太商店]でとっておきの一本と出会うため、是非会津を旅してみてほしい。
ライター:卜部奏音
新潟県在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師
政府系機関で日本酒を含む食品の輸出支援に携わり、現在はフリーライターとして活動しています。甘味・酸味がはっきりしたタイプや副原料を使ったクラフトサケが好きです。
https://www.foriio.com/k-urabe
