酒蔵に聞く

酒造りの楽しさに魅了![花春酒造/福島県]杜氏 柏木さんに日本酒への想いをインタビュー!

江戸から明治への過渡期に、幕府軍と新政府軍の激戦の舞台となった福島県会津若松市。戊辰戦争での焼失を乗り越え、300年を超える歴史を誇る[花春酒造]が建つ街だ。その歴史と酒造りへの想いを知るため、日本列島を寒波が襲った2月下旬、雪深い会津の地を訪ねた。

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4000坪の広大な敷地に、巨大な自動製麴機や13トンもの米を仕込める超大型タンク、全館空調の入った貯蔵庫など最新の大型設備が立ち並ぶ[花春酒造]。少人数での量産を可能にした徹底的な効率化の一方、米作りから蔵人が関わり手作業で少量ずつ仕込む昔ながらの造り方も大切にしている。
「寒さの中での重労働や水仕事が多い大変な仕事ですが、新酒が出来上がった時の喜びは何物にも代えられません」。酒造りの楽しさに魅せられ、次世代にその魅力を繋ぎたいと奮闘する地元・会津出身の杜氏 柏木純子さんにインタビューした。

この方に話を聞きました

花春酒造株式会社杜氏 柏木純子さん
プロフィール
大学では食品学を専攻し、1993年に研究職として花春酒造に入社。10年越しの念願が叶って2002年に製造部門に異動し、2007年から杜氏を務める。

蔵の光景に衝撃を受け、酒造りの道へ

福島県会津若松市の郊外、周囲を田んぼに囲まれた神指町(こうざしまち)に[花春酒造]は4000坪の広大な敷地を構える。その歴史は古く、創業は1718年(享保3年)に遡る。

「創業当初は、当時の所在地であった天寧寺町に由来を持つ『天政宗』という銘柄でした。創業から150年が経つ頃、戊辰戦争で蔵が全焼してしまいましたが、5代目蔵元がいち早く再興させました。戦に負けて打ちひしがれている会津の人に、花のように明るく春のように和やかな気持ちを取り戻してほしい。そんな思いで『花春』と名前を変えたそうです。」
そう語るのは地元・会津で生まれ育ち、15年以上杜氏を務める柏木純子さん。

大学卒業後、専攻した食品学を活かせる場所として[花春酒造]に入社したものの、当時は日本酒を飲んだことがなく作り方も知らなかった。お酒好きの父に酒蔵での就職を勧められ、たまたま受け入れてくれたのが[花春酒造]だったのだ。

ところが入社早々、柏木さんの運命を変える出来事が起こる。
「最初の仕事は分析用の醪を蔵に取りに行くことでしたが、そこで見た造りの光景に衝撃を受けました。活気があって、とても賑やかで楽しそうに仕事をしていて。自分もやってみたいと思ったのが酒造りに関心を持ったきっかけです。」
すぐに製造部への異動を願い出たが当時は”女人禁制”の考えが根強く、叶わなかった。その後、経営陣の交代を機に酒造りへの参加が許され、福島県の清酒アカデミーで技術を磨いて杜氏に就任した。

大規模な設備があっても手作りを重視する訳

右端が大量生産用の超大型タンク、左端が手作業での仕込みに使っているタンク。掛け米をお粥状にして投入する「姫飯仕込み」や随所に設置されたセンサーで、大量生産であっても品質にむらが出ないよう工夫している。

[花春酒造]の特徴は、大規模な設備投資で機械化された近代的な造りと、昔ながらの手間暇かけた少量での仕込みを併存させている点だ。「元々は機械化された大量生産のお酒だけを造っていました。ただ、多少高くても質の良いものを好む人が増えた時代の流れを受けて、手をかけた昔ながらの仕込みもするようになったんです。」
質の高いお酒を造ることはもちろん大切だが、それだけが目的ではない。「手作りでお酒を造ることで、若い世代に酒造りの楽しさを伝えたいという意図もあります。機械を使うと、お米を入れてボタンを押せば設定どおりにお酒は出来上がります。でもそれだけじゃ面白くない。」「正直、お酒造りってすごく大変だと思います。寒いし水仕事が多くて、よくイメージされる櫂入れのような作業はほんの一部で、一日中洗い物をしている感じです。それでも新しいお酒が出来上がった時はすごく嬉しくて。皆がにこにこしながら唎酒をしている光景を見るのが大好きです。そういう想いを若い人にも大切にしてほしいと思ってやっています。」

倉庫には出荷を待つお酒がずらりと並ぶ。

お酒造りをする上で最も重視していることを尋ねると、迷うことなく「蔵の雰囲気」と答えが返ってきた。「いくら一人で頑張っても絶対に良いお酒はできません。チームで作っているので、皆が同じ想いでお酒を作ることが大事です。不思議なことに、皆がにこやかに働けた年はお酒も良いものが生まれるんです。」
目に見えない微生物相手の仕事だからこそ、同じく目には見えない蔵の雰囲気が、論理的に証明はできずともお酒の出来に作用するというのも納得がいく。

柏木さんのおすすめ銘柄3選

柏木さんにおすすめの銘柄を3つ紹介してもらった。

結芽の奏 純米大吟醸(写真左) 1,367円(720ml)
・アルコール度数 : 15%  ・原料米 : 一般米 ・精米歩合 : 50%
「創業300年を記念して作ったお酒で、一番の売れ筋です。大吟醸は”特別な時に飲むお酒”というイメージがありますが、日常のお酒として楽しんでほしいという思いで造りました。食事を邪魔しないようにあえて香りは穏やかにしつつ、お米の旨味をしっかり残してキレのある味わいにしています。今の時期ですと鍋やおでんによく合います。」

山田錦 大吟醸(写真中央) 3,500円(720ml)
・アルコール度数 : 16%  ・原料米 : 兵庫県産山田錦  ・精米歩合 : 40%
「昨秋、福島県の鑑評会で知事賞を頂いたお酒です。柔らかい旨味や甘味といった山田錦の特徴を活かして作りました。刺身などシンプルな料理と一緒に、素材本来の味を楽しんでほしいですね。」

天宮 純米酒夢の香 生(写真右) 1,650円(720ml)
・アルコール度数:16%  ・原料米 : 会津産夢の香 ・精米歩合 : 55%
「『夢の香』という福島県の酒米で作った、特約店限定の希少な銘柄です。夢の香を使うと旨味があって太い味わいのお酒になりやすいので、その特徴を活かしつつキレの良さにこだわりました。焼き鳥のような味の濃い料理と合わせてみてください。」

「うちの味をだすには欠かせない」という、地下80mから汲み上げる軟水。なんと敷地内に水道は通っておらず、洗米や洗い物含め全てこちらの地下水で賄っているそう。

若手の感性を活かした酒造りを支えたい

最後に、これから挑戦したいことを尋ねてみた。
「現在、契約農家さんの元で田植えや稲刈りに参加して米作りに関わっています。今作っているのはコシヒカリだけなので違う品種にも挑戦して、自分達で作ったお米でお酒を造る機会をもっと増やしたいです。この土地の米、水、そして人で、蔵がある会津の神指町でしか造れない酒にしたいです。」
また、蔵で働く若い世代へこう期待を込める。
「これからは若い人の感性を活かしたお酒を造ってほしいです。「こういうお酒を造りたい」というのがきっとあると思うんです。そういった想いを形にしてあげたいし、それを支える立場でありたい。彼らに次世代に繋がるお酒を造ってもらえれば花春酒造もどんどん活気が出てくると思います。」
機械化によってどれだけ効率よく造れるようになろうとも、お酒造りの世界に飛び込んだ時に感じた手作業ならではの楽しさ、そして同じ想いを共有して一緒にお酒を造るチームの結束を大切にし続けている柏木さん。
彼女の背中を見て育った世代が花春酒造の次の中核を担う日もそう遠くはないはずだ。


ライター:卜部奏音

新潟県在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師
政府系機関で日本酒を含む食品の輸出支援に携わり、現在はフリーライターとして活動しています。
甘味・酸味がはっきりしたタイプや副原料を使ったクラフトサケが好きです。https://www.foriio.com/k-urabe

花春酒造

花春酒造

創業
1718年(享保3年)
代表銘柄
花春
住所
福島県会津若松市神指町大字中四合字小見前24番地の1Googlemapで開く
TEL
0242-22-0022
HP
https://www.hanaharu.co.jp/
営業時間
9:30~17:30
定休日
土日

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