[伝統的酒造り]に関する技、歴史、文化が金沢の食文化と融合!ユネスコ無形文化遺産登録記念シンポジウムin金沢をレポート
「匠(たくみ)のわざと日本の文化を未来へ紡ぐ伝統的酒造りシンポジウム」と題し文化庁が主催。地酒の飲む比べや伝統的酒造りの魅力を紹介するトークショー、伝統芸能の鑑賞、北陸の食や工芸品など文化的魅力が盛りだくさんの2日間をレポート。
「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを記念するシンポジウムが2025年1月25、26日に金沢市の金沢港クルーズターミナルにて開催。「匠(たくみ)のわざと日本の文化を未来へ紡ぐ伝統的酒造りシンポジウム」と題し、文化庁が主催。石川の酒造技術が高いことや、能登半島地震と奥能登豪雨の被災地の支援につなげようと、県内での開催となった。
シンポジウムでは伝統的酒造りに関する技、歴史、文化を学ぶ、味わう、広げるという視点で体験できるほか、石川の伝統芸能の鑑賞や工芸品の製作体験、また食を通じて、石川の文化的魅力を感じることができた。2日間で3400名を超える来場者があり注目度の高さが伺えた。本記事では1日目の様子をレポートする。
鏡開きで華々しくスタート
オープニングセレモニーでは、都倉俊一文化庁長官が「石川県の能登杜氏は、日本の4大杜氏の1つに挙げられており日本の酒造りにおいて重要な地域。また石川県の伝統芸能、輪島塗、九谷焼、加賀友禅など伝統工芸品、また加賀料理などの食文化は文化芸術資源の宝庫。文化庁として伝統的酒造りのユネスコ無形文化遺産登録を機に石川県の魅力を国内外に発信することによって能登の復旧復興を後押しし、石川県に関わるすべての皆様を応援したい」と力強く挨拶。
来賓を代表して馳浩石川県知事は「お酒は仲間と一緒に、 家族と一緒に語り合うために飲むもの。自然と風土、人間関係を円滑にしていくからこそ無形文化遺産として認められたと私は思っています。」
[伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会]の小西新右衛門会長はシンポジウムが石川県金沢の地で行われたことに関して「今後この伝統的酒造りを発展させていくのは、文化的な側面、また歴史的な側面を掘り起こしていきたい」と祝辞を述べた。
鏡開きの後は2023 Miss SAKE 山田 琴子さん(右)2024 Miss SAKE 南 侑里さん(左)と共に振る舞い酒が振舞われた。来場者からは長蛇の列もでき注目の高さが伺えた。
伝統的酒造りを知る
シンポジウムでは「伝統的酒造りを知る」と題してパネル展示やトークセッションも行われた。
「伝統的酒造り」は古くから日本に根差してきた文化の一つであり、こうじを用いて醸される「日本酒」「本格焼酎」「泡盛」「本みりん」は食文化を語る上で欠かせないもの。そして地域特有の気候や人々の嗜好、伝承してきた技によって味わいの違いが存在する。トークセッションでは伝統的酒造りの造り手から、日頃から大切にしてきたことや技の継承への取り組みが紹介された。
日本酒造杜氏組合連合会 相談役/(一杜)南部杜氏協会 名誉会長/天鷹酒造株式会社 顧問 直町 昊悦さん(右から3番目)は日本全国の酒造りの違いに関して麹造りが1番だとのこと。「地域に合わせた造り方が伝統的酒造りの根本にはある」、都度タイミングの見極めや手触り、匂い、気候(湿度)など感覚的なところが影響を受けているという。
国税庁 鑑定企画官 岩田 知子さん(右)も1番大事なのは麹だという。「麹は日本酒の味わいの骨格を作るものです。麹が作っている微量な成分がアルコールを作り出す酵母の働きやその特性や影響に繋がっている」と答える。
諏訪御湖鶴酒造場 酒造本部長 杜氏 竹内 重彦さん(右から2番目)は若い世代や未経験者でもできる酒造りの手法として具体的な数値を決めているという。「先代の方々が築き上げてきた五感、判断プラス数字を用いることで新たな酒造りをしている。」ただ数字を信じるだけではなく、手触りや香りで数字が間違っていることの判断もできるのも伝統的な技術だという。
日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会 会長 小西 新右衛門さん(左から3番目)は様々なデータを使う新しい造り方と昔ながらの造り方を融合することで技の伝承や次の世代に繋いでいくきっけかになるという。「今までのものを守るだけではなく、将来に続くにはどんなことしたらいいかということも企業としても研究している。文化面、歴史的な背景を知ることで、伝統的酒造りの発展にもつながる」と答えた。
能登の復興・石川の日本酒を飲み比べ
会場では飲み比べブースが設けられ、福光屋(金沢市)や車多酒造(白山市)のほか、地震で被害を受けた数馬酒造(能登町)など24種類の地酒が用意された。多くの来場者が蔵によって異なる味わいを楽しんでいるようすが印象的だった。「能登のお酒を飲みに来た。そのお酒もおいしいが、能登のお酒を買うことが一番の応援になる」と来場者からのコメントも。
1868(明治元)年創業の松波酒造。能登町で160年の歴史を刻んできたが、2024年1月1日の能登半島地震で酒蔵や母屋は全壊。現在、伝統の味を守り続けるため、諦めず、奥能登の地での酒造り復活を目指している。
今回、飲み比べができる銘柄「大江山 GO 純米大吟醸」
全壊した蔵から取り出されたご当地酒米百万石乃白を小松市の加越の協力を得て、醸すことができた。「“GO”には、新しい一歩、たくさんの人の力が合わさった“合”、“酒豪の豪”、強さの“強”、“郷里”などさまざまな意味が込められています。」と金七さん。
一口飲むとフルーティー、優しい甘さが口に広がる。後半は程よい辛口とキレの後味が押し寄せる。
金七さん「まだまだ復興はされていません。水がでるかもわからない状況ですが、簡易のビニールシートで酒造りに取り組みたいと構想しています。この1~2年は実験的になるかもしれませんが、応援してくれる方や待ってくれている方の為にも負けずに頑張ります」
ネット販売での応援のメッセージが力になっているという。
直接の助けにはならないかもしれないが能登のお酒を飲むことや、語ることで少しでも力になりたい。少しづつだが能登は前に進んでいる。
歴史、文化を学ぶ、味わう、広げる
石川県の復興や、「伝統的酒造り」の歴史や技術を紹介する展示はもちろん、九谷焼の絵付けをはじめとした石川の伝統文化を体験できるコーナー、伝統芸能の鑑賞、能登の食材やグルメなども楽しめた。
文化庁担当者からは「多くの方に来場していただき嬉しく思います。今回のシンポジウムはお酒はもちろん、石川の伝統文化、食文化など大人から子どもまで文化の魅力を体感していただければと思います」とコメント。
日本だけではなく、海外にも魅力が広がっている日本酒。日本酒が日本文化のハブとなるよう、日本酒を知ることで、日本の神事や文化、伝統に興味を持つ方が増えることを願う。日本酒を味わうことで、食文化、そして復興の力になれるよう日本文化を広げていきたい。
文:Sake World編集部
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