伏見の日本酒で乾杯!「伏見の清酒まつり in 大手筋商店街 2024」の様子をレポート
2024年11月16日(土)、京都の伏見大手筋商店街にて「伏見の清酒まつり in 大手筋商店街 2024」が開催された。伏見に蔵を構える15の酒蔵に加え、地元飲食店が提供する絶品フードが集結。熱気あふれるイベント当日の様子をレポートする。
歴史ある伏見の日本酒を堪能できる清酒まつり
千年の都である京都は歴史上、長きに渡り全国最大規模の日本酒消費地でもあった。京都での酒造の歴史は平安時代にまで遡り、時代を経るごとに酒造量は増加。商業と流通が安定するにつれ、洛中から伏見を中心にした郊外へと酒造りの現場は移り変わっていった。かつては「伏水」とも呼ばれたように、良質な地下水に恵まれた環境も伏見で酒造業が発達した理由でもある。
明治期に入り、鉄道が物流の中心になると伏見の日本酒は全国へとその名を轟かせる。東京市場への進出、酒造技術の向上によって急成長を遂げた伏見の酒蔵。こうした伏見の酒蔵がけん引する形で、現在もなお京都府は全国でも指折りの生産量を誇っている。
「伏見の清酒まつり in 大手筋商店街 2024」ではこうした歴史ある伏見の酒蔵が15蔵参加。会場となる伏見大手筋商店街は京阪伏見桃山駅、近鉄桃山御陵前駅の目の前から400m続いており、第一部が開始される13時30分前には大勢の来場者で盛り上がった。
3部制の前売りチケットは全て完売。1日を通して合計4,000名の来場者が伝統ある伏見の日本酒を堪能した。
歴史ある15の酒蔵が自慢の日本酒を提供
商店街のアーケード中央には各酒蔵ブースがずらりと並ぶ。日本酒を飲むためのオリジナルおちょこ、100円券×10枚のお酒券を持ち来場者は目当ての酒蔵へと足早に急ぐ。
各ブースではその蔵を代表する銘柄はもちろん、しぼりたての新酒などこの時期しか楽しめない日本酒も提供されている。各ブースを順に回遊していこう。
A 黄桜(1925年創業)
出品酒:純米スパークリングピアノ・なからぎ 純米吟醸・特選 純米吟醸 黄桜・大吟醸ヌーヴォ
なからぎ 純米吟醸は京都府立大学のオリジナルの日本酒であり、京都産の酒米「京の輝き」と京都酵母「京の恋」を使用している。名称のイメージのように、すっきりとまろやかな飲み口が特徴だ。
B 京姫酒造(1918年創業)
出品酒:山田錦 大吟醸 匠・純米大吟醸 匠・大吟醸原酒 京姫 斗壜取り
大吟醸原酒 京姫 斗壜取りは醪を絞る際に余分な圧力を加えず、酒袋から雫のように落ちる清酒を瓶詰めした贅沢な1本。華やかな香りと優しい旨味、喉越しが楽しめる。
C 山本本家(1677年創業)
出品酒:神聖 たれ口 無濾過生原酒・神聖 特別純米原酒 超辛口・神聖 京都産祝 純米大吟醸・山田錦 純米大吟醸原酒 ゴールド・山田錦 純米大吟醸原酒 プラチナ
山田錦 純米大吟醸原酒 プラチナは、本イベントで最も高額な銘柄(チケット10枚分)となった。繊細な香りと優しい口当たり、穏やかながらもしっかりとした旨味が感じられる。何度も杯を傾けたくなるような上品なお酒だ。
▲専務取締役 山本晃嗣さん「まだ上のランクの日本酒もあるのですが、チケット10枚以上は申し訳ないので…こういったイベントの機会に飲んでいただけて嬉しいですね」
また、山本さんは燗酒での提供も行っていた。「湯煎で時間がかかるのですが、温めることで美味しさが引き立った日本酒を飲んでもらいたいので」と大忙しの合間に笑顔で答えてくれた。
D 都鶴酒造(1970年創業)
出品酒:都鶴 純米吟醸 生酒・都鶴 純米吟醸 ひやおろし・都鶴 純米大吟醸 無濾過原酒
都鶴という銘柄は170年以上の歴史を持つ銘柄であり、現在に至るまで数々の蔵元の手に渡って引き継がれてきた。都鶴 純米大吟醸 無濾過原酒は穏やかな吟醸香でありながらも、原酒らしいしっかりとした味わいが楽しめる銘柄だ。
E 北川本家(1657年創業)
出品酒:しぼりたて 無濾過生原酒・純米大吟醸 ささにごり 生原酒・大吟醸原酒 斗瓶採
新酒 しぼりたて 無濾過生原酒は原酒ならではの力強さとジューシー感が堪能できる。この味わいがチケット1枚で楽しめるのには驚いた。
代表取締役社長 北川幸宏さんは、日本酒造りについて「日本酒作りは麹や酵母など微生物を相手にするので、昼夜を問わない作業が必要になります。昔より技術は発達していますが、今でも多くの人手を必要とする作業です」と述べる。数百年間もの間、この伏見という地で日本酒造りが続いていると思うと感慨深い。
F 松本酒造(1791年創業)
出品酒:桃の滴 純米酒・桃の滴 純米吟醸・桃の滴 純米大吟醸
看板商品となる桃の滴の飲み比べを展開。精米歩合によって異なる香味を比べて楽しめる。
代表取締役社長 松本総一郎さんは伏見の日本酒について「京都という名前は世界に知られています。伏見までのラストワンマイルを繋げるために、発酵文化のアピールなど様々な工夫が今後重要になりますね」と述べる。
G 玉乃光酒造(1673年創業)
出品酒:純米大吟醸 しぼりたて 原酒・純米吟醸 祝100% 源氏物語絵巻・有機 純米吟醸 GREEN 雄町・純米大吟醸 酒鵬古酒
純米大吟醸 しぼりたて 原酒は、収穫したての新米を使って醸した新酒。一般発売前に本イベントにて先行して提供された。しぼりたての瑞々しさと原酒ならではの飲み応えは秋冬の旬の味覚にマッチする。
H 齊藤酒造(1895年創業)
出品酒:英勲 純米 しぼりたて生原酒・英勲 秋上り 純米酒・古都千年 純米大吟醸・一吟 純米大吟醸
新酒のしぼりたてをいただく。生原酒ということもあり飲み応え抜群の一本だ。
▲代表取締役社長 齊藤洸さん「去年よりも参加定員を1割程度増やしましたので、例年以上の盛り上がりです。年々認知度も上がってきており、このイベントを楽しみにしてくれる方が増えて嬉しく思います」
本イベントは伏見の日本酒を楽しめると同時に、大手筋商店街の各店舗の魅力に触れることができる。 齊藤さんも「イベントが終わってから商店街のお店に足を運んでもらえると嬉しいですね」と続ける。伏見の日本酒を中心にした街興しとしても大きな成果を上げていると感じた。
I 増田德兵衛商店(1675年創業)
出品酒:月の桂 抱腹絶倒・月の桂 柳 純米吟醸酒・月の桂 祝米 純米大吟醸 にごり酒
▲14代目会長増田德兵衛さん、代表取締役社長 増田醇一さん、そして2024 Miss SAKE 京都 津田朋佳さんもブースに立ち、大勢の来場者に直接お酒を提供していた。「毎年楽しみにしていただき、大盛況で主催者側としても本当に嬉しいです」と德兵衛さん。いただいた月の桂 柳 純米吟醸酒はバランスの良い香り、味わいでスッキリと楽しめた。
J キンシ正宗(1781年創業)
出品酒:銀閣 荒武者・金鵄正宗 純米吟醸 山田錦・金鵄正宗 純米吟醸原酒 限定氷冷貯蔵・松屋久兵衛プレミアム
「松屋久兵衛プレミアム」は兵庫県産山田錦を35%精米させた贅沢な1本。低温熟成によって生まれる、コクと香りが楽しめる。
K 招徳酒造(1645年創業)
出品酒:純米吟醸 招徳 冬の酒~しぼりたて~・純米吟醸 招徳 秋の酒~ひやおろし原酒~・純米大吟醸原酒 中取り 祝・純米大吟醸原酒 中取り 山田錦
招徳酒造では新酒のしぼりたてと秋のひやおろしの飲み比べができた。一つの蔵での比較もこうしたイベント参加の醍醐味だろう。
L 豊澤本店(1800年代創業)
出品酒:豊祝 生原酒・豊祝 吟醸・豊祝 純米吟醸・豊祝 純米大吟醸 祝・豊祝 純米大吟醸
「豊祝 純米大吟醸 祝」は京都府独自の酒米である祝を50%まで磨き、伏見の天然水を使って醸されている。
M 宝酒造(1842年創業)
出品酒:松竹梅「昴」〈生貯蔵酒〉・〈特選松竹梅 純米大吟醸〉・〈特選松竹梅 大吟醸 磨き三割九分〉
松竹梅の商標登録は1920年にまで遡る。精米歩合39%まで磨いた「特選松竹梅 大吟醸 磨き三割九分」はフルーティな吟除香と上品な味わいが楽しめる。
N 月桂冠(1637年創業)
出品酒:特選・アルゴ 日本酒5.0・新米新酒 純米大吟醸 生酒・鳳麟 純米吟醸・鳳麟 純米大吟醸
2024年9月に発売されたばかりのアルゴはアルコール度数5%の新感覚日本酒だ。常務取締役の大倉泰治さんは本商品について「週末にしか日本酒を飲まない方でも、気軽に楽しんで欲しいという気持ちで開発しました」と話す。甘酒のようなコクと爽やかさがあり、全く新しい日本酒の香味が楽しめる1本だ。
O 松山酒造(1923年創業)
出品酒:十石 祝 純米吟醸・十石 祝 純米吟醸 無濾過生原酒・十石 祝 純米吟醸 春・超限定!十石 祝 純米吟醸 おりがらみ生・十石 祝 純米大吟醸 無濾過生原酒
松山酒造は2021年より1年余りの休止期間を経て、十石銘柄として2023年に新たに登場した。2023年春にスタートした同銘柄は伏見の歴史上最も新しいものとなる。こうした背景から多くの来場者からの注目を集め、数の限られる「新酒 超限定!十石 祝 純米吟醸 おりがらみ」などは開始早々に完売となるにぎわいを見せた。
ユネスコ無形文化遺産登録が伏見の日本酒の追い風に
2024年11月初旬、日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録される見通しになったことが発表された。こうした伝統が今まで継承されてきた一因として、伏見の存在は決して小さくないだろう。
伏見酒造組合 前理事長 増田德兵衛さんはこう話す。
「フランスではガストロノミー(食事と文化の関係)として、飲む食べるといった行為に対して無形文化遺産登録がされています。お酒単体で登録されることは世界的にも珍しいです」
2024年11月より、伏見酒造組合の理事長に就任した 北川幸宏さんは今後の展望について以下のようにコメントした。
「2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、『次は日本酒だ』という形で業界をあげて取り組んできました。伏見が日本酒の銘醸地であることは関西圏の方には認知されていますが、東日本ではまだまだ認知度が高いとは言えません。ユネスコへの登録をきっかけに、全国各地の方に伏見の日本酒を知ってもらい、飲んでもらえるような取り組みを進めていきたいですね」
また、今後の伏見についての展望について以下のように続けた。
「伏見は京都という世界的にも有名なブランドがあることから、日本酒の生産地としては恵まれた環境を持っています。伏見稲荷大社までは多くの国内外の観光客が訪れますので、そこから伏見の各酒蔵まで足を伸ばしてもらえる仕掛けをこれから考えていきたいと思います。大小様々な蔵がコンパクトに集まっていますので、複数の蔵を巡ることで日本酒のことが理解できるような取り組みを進めていきます」
日本酒が世界に認められたことは伏見の酒蔵にとって強力な追い風になるだろう。全国はもちろん、世界各国の観光客が日本酒を求めて伏見を訪れる日は近いはずだ。
そして、2025年3月15日には「伏見 酒フェス〜FUSHIMI SAKE FES.〜2025」の開催が予定されている。日本酒の歴史を支えてきた、伝統ある伏見のお酒を心ゆくまで楽しんで欲しい。
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ライター :新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。