イベントレポート

山形の日本酒はどうして美味しいの?日本酒飲み比べイベント「やまがたの酒と肴」レポート

山形県内の酒蔵が作る100種類以上の日本酒が飲み比べできるイベント「やまがたの酒と肴」が2024年9月14日(土)と15日(日)に霞城セントラル1Fアトリウムで開催された。日本の最高峰を目指して山形県と酒造組合が開発したオリジナルブランドの純米大吟醸「山形讃香」も登場した。熱狂に包まれた同イベントをレポート。

  • この記事をシェアする

2024年9月14日(土)、15日(日)にかけて行われた「やまがたの酒と肴」は山形の酒蔵が作る日本酒と日本酒に合う山形の肴が並ぶ山形県酒造組合主催のイベントだ。昨年はコロナ禍以降4年ぶりに開催となったが、今年は前売り券が完売するなど昨年以上の大盛況となっていた。9月14日(土)の様子をレポートする。

芋煮鍋ベンチに座って山形の日本酒を味わう

会場となったのは山形駅すぐにある霞城セントラル1Fアトリウム。山形駅に向かう人通りが多い場所ということもあり、スタート時間の11時から早くも会場内は大賑わいだった。12時に会場入りすると、当日券はすでに完売。3連休の初日ということもあり、試飲券を片手に昼酒を楽しむ人の熱気が立ち込めていた。

会場では「純米大吟醸酒・大吟醸酒」ゾーン、「純米吟醸酒・吟醸酒」ゾーン、「特別純米酒・純米酒」ゾーンの3つのエリアで、各酒蔵こだわりの日本酒がズラリと並ぶ。さすが「吟醸王国やまがた」と言われるだけあって吟醸酒の出品が多かったのが印象的だった。

酒蔵の社長や蔵人が直接来場者にお酒を振る舞い、各銘柄の日本酒の魅力やこだわりを説明し、来場者は舌鼓を打つ。また山形県産の珍味や日本酒商品の販売エリアもあり、山形の日本酒とフードのペアリングを堪能していた。

山形を代表する郷土料理、芋煮をデザインした芋煮鍋ベンチで日本酒を楽しむ人の姿も。

山形県内在住者だけでなく、お隣の仙台や福島からもはるばる電車で来場した人も多く、東北全体を巻き込んだ日本酒イベントとなっていた。和歌山や三重、高知など関西方面からのお客さんも多かったという。

清酒において全国初となる都道府県単位での地理的表示「GI山形」指定

低温発酵に適した寒冷な気候、雪解けによる豊かで良質な仕込み水など、恵まれた自然風土で日本酒造りができる山形。50の酒蔵があり、全国でも有数の酒処だ。山形の日本酒造りは県全体が切磋琢磨しながら一致団結して行っている。酒蔵や蔵人同士の仲がよく、横の繋がりや絆も強い。山形県酒造組合を中心としたさまざまな取り組みが功を奏し、「山形のどこの酒蔵がいいか」「どの日本酒が山形で一番か」より、「山形の日本酒はすべて美味しい」という全体的なレベルの底上げが実現されている。

その最たる例が2016年12月に国税庁から指定された地理的表示「GI山形」。これはワインで例えるとボルドーやシャンパンのように、ある特定の特徴的な気候や原料、製法によって作られた商品だけが産地名を独占的に名乗ることができるという、いわば山形県産の日本酒を保護する制度だ。山形県はこのGIを県単位の日本酒の地理的表示では全国で初めて指定を受けた。

また山形県酒造組合特別顧問を務める小関敏彦氏によると、山形県はオリジナルの酒米の開発にもかなり力を入れているという。1995年に「出羽燦々」、2005年に「出羽の里」、そして2015年には「雪女神」が誕生した。

「昔は寒暖差が激しい山形では酒の柔らかさが表現しにくい硬い酒米が多かったんですが、近年は軟質米が開発されています。この軟質米が作られたからこそ、柔らかくて華がある日本酒が山形でもたくさん作られるようになりました。オリジナル酒米の開発は兵庫の次に多く、ここまでお金も労力もかけているのはこの2県くらいです」(小関氏)

この県オリジナル酒造好適米「雪女神」の精米歩合35%のものを使用した山形県酒造組合オリジナルブランドの純米大吟醸酒が『山形讃香』だ。毎年開催される酒米コンテストの成績上位者の酒米を使用し、「製造担当蔵選出審査会」で上位の成績を獲得した蔵が醸造を行う。酒米優勝者と酒蔵優勝者がタッグを組み、山形県を代表する酒を醸すという、日本の最高峰を目指して山形県が力を注いだGI山形のフラッグシップとも言えるお酒だ。

注目の日本酒4選

「やまがたの酒と肴」に出店していた注目の日本酒をご紹介。

錦爛酒造「羽陽錦爛 純米吟醸 秋あがり」

「山形県が開発した酒造好適米「出羽燦々」を使い、自家精米で40%まで磨いた一品。搾ってから半年以上蔵で大切に貯蔵され、毎年9月から11月末までの秋季限定で出しています。香りは控えめなのに芳醇でやや辛口でスッキリとした口当たりが楽しめる純米吟醸で、癖のない綺麗な味わいなのでぜひお料理と一緒に味わってほしいです。冬まで寝かせておいて年末年始の特別な料理やおせちと一緒に飲んでいるという方から、リーズナブルな価格なのでケース買いして毎日飲んでいるという方まで、いろいろな楽しみ方ができるお酒です」

月山酒造「銀嶺月山 月山の雪」

「酒造好適米「出羽燦々」を使って50%まで大切に自家精米して醸し上げた純米吟醸酒。 まろやかできめ細かな口当たりと優雅な香りが特徴です。おすすめは常温や冷ですが、ぬる燗でもとても美味しいです。和食はもちろん、フランス料理にも合う柔らかくて幅のある味わいを楽しめます。フルーティーで飲みやすいので女性にも人気が高いです」

長沼酒造「純米大吟醸酒 惣邑(そうむら) 雪女神」

「山形県の大吟醸用酒造好適米「雪女神」を40%まで磨きあげ、小仕込みで醸した純米大吟醸です。程よい華やかさと飲みやすさを兼ね備えています。ラベルは毎年変えているのですが、これは『化物語シリーズ』や『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などのアニメを手がけたアニメーターの渡辺明夫さんに描いてもらったもの。若い人や女性など日本酒に馴染みのない方からも目を引きやすいためか、今日のイベントでも多くの方に飲んでいただけています」

東の麓酒造「純米酒 東の麓」

「スッキリとした辛口純米酒で飲み飽きしない飲みやすさが魅力のお酒です。普段飲みの晩酌酒としておすすめで、お燗から常温、冷まで幅広い温度で楽しめると思います。ほとんど手作業で酒造りを行っている小さな酒蔵ですが、山形県南陽市唯一の酒蔵として大吟醸酒から純米大吟醸、特別純米酒、純米酒、普通酒に至るまでさまざまなお酒を日々作っています」

ワインのシャブリのように、”山形の日本酒“が1つのジャンルとなってほしい

最後に鯉川酒造(株)の代表取締役であり、山形県酒造組合の佐藤一良会長に山形県の目指すこれからの日本酒造りについて聞いた。

「山形にはこだわりのある酒蔵がたくさんあり、高級酒からリーズナブルな酒までハズレがないと言われています。これは山形の気候や風土、水、各酒蔵の伝統と技術、酒蔵同志の絆など総合的な強みがあるからだと思います。後継者不足に陥る酒蔵は多いですが、他県の蔵から越境して後を継いでくれている人も仲間なので組合に入ってもらい、1社だけが売れるのではなく山形県全部の酒蔵がみんなで売れていこうという志を一つにしています。今回のイベントでは消費者の声を生で聞けるので、各酒蔵はそれらの声を持ち帰ってさらに日本酒造りに精を出してくれるでしょう。ゆくゆくはワインで言うシャブリのように、”山形の日本酒“として1つのジャンルを確立していきたいと思っています」(佐藤さん)

イベントに参加してみて、決して広くはない駅ビルの1Fフロアという会場だったが、その熱狂ぶりに終始驚かされた。カップルや男性3人組、女性グループなど、若い人たちが蔵人の話を熱心に聞きながら今まで知らない山形の日本酒を思い思いに吟味している姿も多く見られた。「種類がありすぎてどれにしよう~」、「同じ酒蔵、銘柄だけどさっき飲んだ純米大吟醸とこの純米酒で香りとのど越しが全然違う」という声も聞かれ、今まで知らなかった山形の日本酒の魅力を多くの人に発信できたイベントだったのではないだろうか。佐藤さんの言うように1つの新たなお酒のジャンルとして確立していく日が待ち遠しい。


ライター:エタノール純子
さまざまなお酒を飲み歩き、30歳を過ぎて日本酒に行きつく
最近はスパークリング日本酒にハマっている

特集記事

1 10
FEATURE
Discover Sake

日本酒を探す

注目の記事

Sake World NFT