可憐で華やぎのある酒!愛媛県の花酵母「さくらひめ」の開発についてインタビュー!
華やぎのある愛媛酒。吟醸香とはまた違う可憐な風味は新しく開発された「愛媛さくらひめ酵母」。手探りの中で挑戦した清酒用花酵母の開発について、愛媛県酒造組合理事長の越智さんに話を聞いた。
1.“愛ある”県の花酵母が醸す、可憐で華やぎのある酒
華やぎのある愛媛酒。吟醸香とはまた違う可憐な風味は新しく開発された「愛媛さくらひめ酵母」で醸したからこそ。甘口なのに透明感がありすっきりした酒質はスルスルと喉を流れ落ちておかわりを誘い、瀬戸内・宇和海の淡白な魚介をやさしくつつみこむ。“愛”のある県で育まれた酒と、コロナショックを経て手探りの中で挑戦した清酒用花酵母の開発について、愛媛県酒造組合理事長の越智さんにお話しを聞いた。
この人に話を聞きました
- 右が愛媛県酒造組合理事長の越智浩さん。
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プロフィール大正9年から酒造りをする酒蔵石鎚酒造の代表取締役社長でもある。左は同酒造製造部長であり、弟の越智稔さん
2.「さくらひめ」と名付けられた桃色の花
「愛媛県は比較的小さな酒蔵が多く、県内にある34蔵はみんな個性的です(清酒づくりをしているのは33蔵)。現在では杜氏を外部から雇って酒造りをしている蔵は無く、ちょうど世代交代も進んでいて、比較的若い蔵元が多いと思います」そう話すのは、愛媛県酒造組合理事長の越智さん。理事長に就任して8年目。イベントも外食もできないコロナ禍を経験し、手探りの中で花酵母清酒の取り組みが始めた。
「アフターコロナに向けて。何かできないかと思案していた2020年の夏。ちょうどうち(石鎚酒造)も100周年、社長交代もして節目感のあるタイミングでした」。
当時、県の特産品を国内外へ発信していく事業に協力するために愛媛県庁に出入りしていた越智さん。たまたま目に飛び込んできたのが、県庁の玄関に飾ってあった可憐な花だったそう。その花は「さくらひめ」と名付けられた桃色のディルフィニウム。もともとデルフィニウムは青系の花で、11年もの研究の末に桃色に生まれ変わらせた愛媛生まれの花である。その時にひらめいたのが、花酵母を使った愛媛らしい酒造りだったそう。
「以前、“平成最後の酒造り”というプロジェクがあったんです。東京農業大学がバラの品種のひとつであるプリンセス・ミチコ※から分離することに成功した清酒用花酵母を使って酒造りをするというもので、全国7蔵(南部美人、出羽桜酒造、一ノ蔵、浅間酒造、関谷醸造、石鎚酒造、澄川酒造場)が参加して、各々の酒を作りました。いずれの蔵も東京農業大学の卒業生の蔵なんです。その実績から着想を得ました。さっそく愛媛県産業技術研究所と愛媛県庁に相談をし、実績のある東京農大とも繋いで話は進み、愛媛県からプロジェクトに予算もつきました」。
※プリンセス・ミチコ:1966年にイギリスのディクソン社から当時日本の皇太子妃だった上皇后美智子に献呈された花。
3. 信じたのは“希望”という花言葉
「さくらひめの花言葉は“希望”、“きみに微笑む”。アフターコロナにぴったりだった」。
花酵母は珍しいものではないが、どんな花からでも清酒に適したものが取れるわけではなく、残念ながら取れないということもあるようだ。また取れて1種というのが定説。
県、大学、酒造組合の産官学区連携で進んだプロジェクトの為、当初はうまくいかず、何度も失敗し不安が立ち込めていた時期もあったそう。しかし無理かも…と誰もが思い出した頃、運良く採取に成功。しかも8種も取れるという奇跡が起こった。研究が2年目に差し掛かる頃、8つの酵母で試験醸造をし、出来上がった清酒から大きく4つのタイプに分類した。
そして最終的に4つの酵母を商品化することに成功。海外での販売戦略も視野に入れ、タイプに味を想像しやすいサブネームもつけた(トロピカル、クリア、ウェルバランス、リッチ)。酵母のタイプ別シールは各蔵が酒造組合から買い、シールの販売代金は[愛媛 笑顔のこどもファンド]に寄付されている。
「これからの時代の消費を引率するのは女性。各社ピンクを基調に新たなデザイナーを投入しでボトルもラベルもデザインに力を入れた。クラウドファンディングでも予定の500%を達成。うまくコロナも終息し、台湾をはじめ海外でのPRにも乗り出している」と越智さん。
※写真は愛媛の最大輸出国が台湾でのPRイベントの様子。 “新しいものを”との思いから法被ではなく、さくらひめにちなんでピンクのスーツを揃えて出陣した。
かくして3年の年月をかけて開発された「愛媛さくらひめ酵母」。この酵母を使い、現在酒造組合から22蔵が参加し、22種類の清酒が醸されている。発売からちょうど一年たち、各社から2年目のシリーズがそろそろ出来上がるころ。参加蔵ももう少し増えるとのこと。まだまだ進化し続ける、愛媛の酒にこれからも注目だ。