【奈良県/梅乃宿】創業130年を機に日本酒蔵を移転!
新しい酒文化の創造へ向けた取り組みとは?
1893年に奈良県葛城山の麓で生まれた[梅乃宿]は、「伝統と革新」を理念としながら日本酒だけに留まらない数々の銘柄を展開している。本記事では創業130周年のタイミングで移転した新蔵、そして[梅乃宿]が考える日本酒造りについてお伝えする。
梅の花が咲き始めた3月初旬。
のどかな田園風景に突如として壮大な建物が現れる。
サッカーコート2枚分にもおよぶ敷地に、本社棟のほか、日本酒棟、リキュール棟、充填棟が並んでおり、まさに最先端の酒蔵だ。
創業130周年のタイミングで移転した新蔵、そして[梅乃宿]が考える日本酒造りについて執行役員 製造部部長 桝永剛さんに話を聞いた。
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- 執行役員 製造部部長 桝永剛さん
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プロフィール2017年より製造の全体を取りまとめる責任者を務める。杜氏制度が廃止しされ、社員による酒造りがスタート。全体の計画を立て、常においしいお酒を造るように考えている
1.新しい酒文化を創造する蔵[梅乃宿]
[梅乃宿]という名称は、創業者である吉田家に植えられていた樹齢300年の梅の木に由来する。毎年春に訪れるウグイスの鳴き声を楽しんでいた初代が、「これはまさに梅のお宿だ」と言った言葉が銘柄名、そして屋号になったのだ。
現在では「梅酒」を始めとしたリキュールのイメージが広がっている梅乃宿だが、梅酒製造を開始したのは2000年の頃。当時の厳しい市場に対して活路を見出すべく、日本酒仕込みの梅酒を造りはじめたのがスタートである。社運をかけた挑戦であったが見事成功。桝永氏も「固定概念に囚われない柔軟な姿勢が功を奏した」と語る。今でも梅酒仕込みのタンクには、名称の由来である古木になった梅の実を一粒入れる習慣があるという。
このように、[梅乃宿]は日本酒の新しいおいしさ、楽しみ方を模索しながら現在も「新しい酒文化を創造する」ために様々な取り組みを推進しているのだ。
2.移転した新蔵を通じて日本酒をアピール
創業130年を目前に控えた2022年7月1日、[梅乃宿]は創業地である葛城市内で新蔵へ移転。最新の設備による酒質向上と同時に、作業の大幅な効率化も実現させることに成功した。蔵人の労働環境にも配慮しつつ、優れた商品を生み出せる環境が整う。
一般消費者に対しては、各製造工程をガラス越しに見学できる通路が用意されており、実際の作業を見ながら楽しく学べる。蔵見学や梅シロップづくり体験などの常設のワークショップの他、季節ごとに様々なイベントが開催されている。
「社会見学で地域の小学生が見に来ることもあります。従業員も地域の方が多いので、自分の子供に職場を見学させるようなこともありますね」と桝永さん。
[梅乃宿]は葛城市で20歳を迎えた方に対して「初めての日本酒は美味しいものを飲んで欲しい」という想いから、純米大吟醸の4合瓶をプレゼントしている。こうした活動は今後の日本酒市場を支える一端を担うはずだ。
3.幅広いラインナップが魅力の商品群
直営店では自慢の日本酒やリキュールはもちろん、お土産やおつまみなど豊富な品ぞろえが魅力だ。
[梅乃宿]葛城 純米大吟醸
蔵の最高技術で醸される代表銘柄であり最高峰。兵庫県産山田錦を100%使用しており、淡麗かつリッチな味わいが楽しめる。葛城で20歳を迎えた際にプレゼントされる銘柄だ。
・720ml:6,050円(税込)・1800ml:12,100円(税込)※2024年4月1日以降の価格
あらごし梅酒
1800mlに対して約18個分の梅を使用。通常の梅酒とは異なる果実味が最大の特徴だ。国産の青梅と完熟梅の両方を使用しており、甘酸っぱい梅の香りと口当たりが楽しめる。
・720ml:1,694円(税込)・1800ml:3,388円(税込)
赤ポン・白ポン
糖類、酸味料、香料を使用しないフルーツ酒。ワインのような風味が感じられるが日本酒らしさも残る全く新しい商品だ。甘さ控えめで食事シーンにも合わせやすい。
・500ml:1,500円(税込)
4.今の「最新」を未来の「伝統」にするために
2017年に[梅乃宿]は杜氏制度を廃止している。これはワントップのチームではなく、全員で美味しい酒を造るという考えが根底にある。従来の方法を盲信せず、常に疑う姿勢を持ちながら日本酒造りに向き合っているのだ。
「良いお酒を造るためにわざと古い造りをすることもあります。伝統と言われていることでも昔は新しかったはずです。理にかなっていたからこそ継続されて伝統になっていった。だからこそ今の新しい造りがあれば挑戦したい。最新がいずれ伝統になるということを考えています」と桝永氏。
今後は日本酒作りに世界各国の製法を反映させるといったことも検討しているという。
「杜氏がいないからこそ一人ひとりが責任を持って作業に取り組めるんです。どんどん思い切ったチャレンジができますし、知識やデータが蓄積されていくメリットがあります」。
新蔵ができて間もなく2年が経過しようとしている現在。
「伝統と革新」をキーワードに日本酒の可能性を追求し続ける[梅乃宿]から画期的な新商品が登場する日は近いかもしれない。
ライター 新井勇貴
滋賀県出身/唎酒師・SAKE DIPLOMA
酒屋、食品メーカー勤務を経てフリーライターに転身。好みの日本酒は米の旨味が味わえるふくよかなタイプ。趣味は飲み歩き、料理、旅行など
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梅乃宿酒造株式会社
- 創業
- 1893年(明治26年)
- 代表銘柄
- 「葛城 純米大吟醸」「あらごし梅酒」「梅乃宿の梅酒」
- 住所
- 奈良県葛城市寺口27番地1Googlemapで開く
- TEL
- 0745-43-9755
- 営業時間
- 直営店10:00〜18:00
- 定休日
- 不定休