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創醸400年を迎えた櫻正宗 これまでの歩みとこれからの日本酒業界を見据えた新規事業とは

兵庫県神戸市東灘区にある櫻正宗は1625年創醸の老舗酒蔵。そんな櫻正宗が今年創醸400年を迎えたことから記念事業を多数展開。日本初となる低アルコール燗酒や新プロジェクトなどを通じて歴史と精神を継承していくとのこと。櫻正宗が抱く「日本酒業界への恩返し」への思いを取材した。

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兵庫県神戸市東灘区にある櫻正宗は1625年創醸の老舗酒蔵。そんな櫻正宗が今年創醸400年を迎えたことから記念事業を多数展開。日本初となる低アルコール燗酒や新プロジェクトなどを通じて歴史と精神を継承していくとのこと。櫻正宗が抱く「日本酒業界への恩返し」への思いを取材した。

創醸400年を記念した新規事業とは

日本酒需要が低迷して久しい昨今。若者がお酒を飲まなくなったとも言われているが、一方で低アルコール飲料は若者を中心に人気だ。灘の老舗酒蔵である櫻正宗はこうしたトレンドを取り入れ、誰もが日本酒の新しい飲み方を楽しめるようにと創醸400年を迎えた今年から新規事業を展開。その意図や培ってきた歴史について11代目当主の山邑さんにお話をうかがった。

この方にお話を聞きました



櫻正宗株式会社 代表取締役社長/11代目 山邑 太左衛門様
プロフィール
1963年生まれ。1717年に創業した荒牧屋良了達が初代「山邑太左衛門」を名乗ってから、代々当主がその名を襲名している櫻正宗において、2003年に襲名し、同時に代表取締役社長に就任。令和4 年には兵庫県功労者表彰を受賞するなど、清酒業界の発展に尽力している。

業界に与えてきた影響も大きい櫻正宗

櫻正宗の歴史は1625年にまで遡る。その年に伊丹・荒牧村でお酒を造り、余剰米で酒造りをしていたことから創醸とし、その後1717年に伝法にて創業。清酒「正宗」の元祖蔵であり、1840年には6代目当主が名水「宮水」を発見して水が清酒の品質に与えることを初めて発見するなど数々の先駆的な役割を果たしてきた。

1906年には櫻正宗の酵母が協会一合酵母として登録されて全国に頒布されるなど、業界に与えた影響も大きい老舗酒蔵として全国に名を馳せている。また1913年には8代目当主が日本初の私設研究機関「山邑醸造研究所」を設立。それ以来、自社で選定・育種された種麹も使いながらより純良な酒造りを行っている。日本一の酒どころの老舗酒蔵として、400年の歴史と伝統を背景に1本1本丁寧に酒を醸し続けている。

創醸400記念酒「秘醸」、売上の寄付、ハレ飲み部……

そんな櫻正宗が今年、創醸400年の節目を迎えるにあたって記念事業を実施することを発表。清酒の消費拡大を図るだけでなく、飲酒運転やあるコール依存症など業界が抱えるネガティブな問題に向き合うという狙いもあるという。

まずは創醸400記念酒「秘醸」の販売だ。「秘醸」は米と水で醸した特別な製法で造られた醸造酒を、オーク樽を含め19年熟成させており、まるで蒸留酒のような味わいも楽しめる逸品。ウイスキーのような風味と日本酒の旨味どちらも楽しめ、料理と合いやすい仕上がりになっているそうだ。

この「秘醸」は販売価格が4万円(税抜き)、販売本数400本と400年の数字と合わせているが、儲けを狙っているものではない。「秘醸」の売り上げの一部は「公益社団法人アルコール健康医学協会」と「公益財団法人交通遺児育英会」にそれぞれ100万円ずつ寄付し、社会貢献活動として業界の抱える問題と向き合っていく。

また新プロジェクト「ハレ飲み部」を発足。特設サイトを公開し、気分やシーンに合わせて自由に日本酒を選べるガイドコンテンツや日本酒に親しみのない人でも楽しめる診断コンテンツなどを展開し、日常のちょっと特別な時間を日本酒とともに過ごす楽しみ方を提案していくという。

新しい飲み方「まろや燗(かん)」

そして最も大きな事業が低アルコール燗酒という新しい清酒の飲み方の提案「まろや燗(かん)」だ。健康志向や低アルコール飲料が支持されている昨今のトレンドを鑑み、清酒の多様な飲み方を提案していくという。具体的には度数5~10%でも美味しく飲める「低アルコール燗酒」を開発し、そこに梅干しや昆布、鰹節など多様な食材を浸すことでアミノ酸や塩分などを添加して味わう飲み方だ。

実際に鰹節、とろろ昆布、塩昆布、梅干しそれぞれに「低アルコール燗酒」を注いで飲んでみると、それぞれでまったく違う香りや味わいになることに驚いた。塩気の強い塩昆布だと旨味が強く出て、濃厚な燗酒として楽しめる。一方で酸味の強い梅干しと合わせると全体的にきゅっと引き締まった味わいに。食事にもおつまみにも合わせやすそうだ。

またとろろ昆布を箸でつまみながら燗酒を飲めるので、新感覚の飲み方が楽しめた。さっぱりとした鰹節と合わせると低アルコールなのにアルコール度数がしっかりと感じられ、「燗酒を飲んだ!」という満足度も高かった。

この「低アルコール燗酒」の製法は現在特許出願中だが、他社が同様の燗酒を製造したり販売したりすることにも前向きだという。消費者が自分の好きな飲み方を見つけ、広がっていくことで清酒の需要を底上げして業界を盛り上げていくことが一番の狙いとのこと。低アルコールなので「燗酒は度数が高くて苦手」という人でもとても飲みやすく、さらに自分だけの燗酒の楽しみ方を見つける楽しみも相まって、若い人や女性にもとても人気が出そうだと感じた。

11代目当主が考える次の10年に向けて

400年という歴史についての所感を櫻正宗11代当主の山邑さんに聞いてみると「通過点」という謙虚な答えが返ってきた。続けて「戦争や阪神大震災、パンデミックなどさまざまな災害や困難を乗り越えて今があるのは自分たちではなく、消費者の皆さんや地域、行政のおかげ」と感謝の言葉を口にする。

今回の記念時事業は創醸400年に際して改めて業界への恩返しや業界自体の需要の底上げという未来に向けたものにすべく、社内でも若い社員にアンケートを取るなどして進めてきたという。企画を聞いた当初、山邑さんは「突飛で想像がつかない面白い取り組みだと感じた。自分のところだけが儲かって盛り上がればいいというものではないので、いろいろな楽しみ方や広がりが生まれてきてほしい」と「まろや燗」から広がる日本酒業界の盛り上がりを期待する。

400年という酒造の歴史の中で山邑さんが大事にしてきたのは「お酒造りは心意気」という信念。そこだけは曲げることなく、一貫して丹精込めた酒造りをしてきたからこそ今があるという。

「日本酒業界の低迷にはライフスタイルの変化や少子化だけでなく、お酒の多様化などいろいろな背景がある。だからこそ我々は次の10年、20年先に若い世代の人たちのために、今までやってきた『酒造りは心意気』ということを伝えていかなくてはいけない」と未来に向けたメッセージを締めくくってくれた。

老舗の酒蔵が歴史を刻みながらも新しい時代に向けて取り組むさまざまな事業。日本酒の新しい飲み方や社会貢献など、業界をリードしながら前を見据えるその姿にこれからも注目していきたい。


ライター:エタノール純子
さまざまなお酒を飲み歩き、30歳を過ぎて日本酒に行きつく
最近はスパークリング日本酒にハマっている

櫻正宗株式会社

創業
1625年
住所
神戸市東灘区魚崎南町5-10-1
TEL
078-411-2101
HP
https://www.sakuramasamune.co.jp/

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