地域の酒

秋田県で日本酒を満喫!公共交通機関で行く、おすすめ酒蔵巡り4選

全国屈指の米どころ・酒どころとして名高い秋田県。日本酒旅には最高ながら、自家用車必須の地域のため、日本酒好きの初探訪では移動手段に悩みがち。そんな日本酒ファンにおすすめできる!運転要らずな、秋田の酒蔵めぐりをご案内する。

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全国屈指の米どころ、かつ酒どころである秋田県。豊かな土壌は米作りに、雪深く長い冬は日本酒の低温長期発酵に最適の地域だ。秋田県が育む日本酒は、ふっくらとした甘さと軽すぎず重すぎない絶妙なうまみを持つ良酒で、全国区で有名な銘柄も多数生まれている。

酒旅にぴったりな秋田県だが、県内は南北に広いうえに県民の移動は自家用車中心のため、公共交通機関では動きにくい場所もあり、初探訪では交通手段に悩む人が多いのも実情。
そこで今回は、秋田の酒をとことん愛する東京在住ライターの筆者が、公共交通機関のみで移動できる“秋田の酒蔵めぐり”を案内したい。組み合わせ次第では、1日で複数か所周ることも可能。運転なしで気兼ねなくお酒を楽しめるので、ぜひ参考にしてほしい。

運転なし!秋田駅を起点に、公共交通機関で秋田の酒をめぐる

今回は、秋田県の中心地であり新幹線も停車するJR「秋田駅」を起点に、公共交通機関で移動しやすい日本酒スポットをご案内。今回紹介するところは、電車移動の場合は羽越本線を使っての移動が中心となる。ただし、電車の本数には限りがあるため、時刻表や乗り換えの接続は、よくご確認をお願いしたい。

1:駅からのアクセス随一!古くからの醸造地に残る酒蔵[秋田酒造]

【アクセス】
JR秋田駅(羽越本線・酒田方面で8分)

JR新屋駅(駅歩約10分)

[秋田酒造]

秋田駅から羽越本線で2つ目の新屋(あらや)駅。秋田市新屋は、醤油や味噌、また秋田県の名産である魚醤“しょっつる”などの醸造地として栄えていた地域だ。

新政酒造瓶詰め工場の跡地に建つ秋田市新屋ガラス工房

「大森山動物園」や「秋田市新屋ガラス工房」などのスポットもあり、ガラス工房の位置する場所は、かつてあの新政酒造の瓶詰め工場があった跡地。散策や観光も楽しめるこの地に、唯一現存している造り酒屋が[秋田酒造]だ。

酒蔵は通常、交通の便には決して恵まれているとはいえない場所にあることが多いが、新屋駅は秋田駅からも近いうえに[秋田酒造]は新屋駅から徒歩10分ほど。酒蔵としては非常にアクセスがよく、一般の見学も可能という、筆者一押しの蔵のひとつである。

前身である[國萬歳酒造]は明治41年(1908年)創業。平成24年(2012年)に現在の形となった[秋田酒造]は、スムースで透き通るような酒質の「酔楽天」と、秋田県産の原料にこだわった「秋田晴」をメインに据え、令和3年(2021年)に杜氏に就任した小舘巌さんが、伝統の味わいから新たな試みを詰め込んだ酒まで、若手らしい意欲で発信している。

この日は、取締役社長の野本翔さんに一般の蔵見学と同様に案内をしてもらった。実際の蔵見学では野本さんを含めたスタッフが交替で案内してくれる。

秋田酒造株式会社取締役社長の野本翔さん

見学では、伝統的な和釜や甑(こしき)など、昔ながらの酒造りが守られている様子がわかる。釜場から見上げる天井はレトロで必見だ。

製麴をおこなう麹室(こうじむろ)は、厳密な温湿度や微生物の管理が必要なデリケートな場所。通常、多くの酒蔵では見学不可とされる場所だが、[秋田酒造]の蔵見学は酒造り最盛期を外しておこなっているので、この麹室も見ることができる。ここでも伝統的な道具である「麹蓋」が使用されている。

一方で、現代的なシステムも取り入れており、蔵には水質プラントが併設している。おいしい酒をつくるためのこだわりが感じられる。


もともと新屋は醸造の町だっただけあり、水質に定評のあった地。野本さんによると、そんな町や水の文化も守りたいという思いで、米だけではなく水にも力を注いでいるそうだ。

入口には売店があり、見学後はそこで試飲や購入ができる。試飲で気に入ったものを購入するもよし、特約店限定のシリーズや地元流通のみのお酒などもあるため、普段は買えないお酒を購入していくのもおすすめ。

また新屋ガラス工房では「秋田晴」の酒粕を炭化させ、ガラスに溶融した「あらやっしゅグレー」という珍しいグレーカラーのオリジナルガラスを開発しており、工房とともに直売でもガラス酒器を販売している。酒器とお酒を「秋田晴」で揃える究極の飲み方もおすすめしたい。

見学(試飲込み)は平日のみの予約制。
予約はこちらhttps://www.akitabare.jp/tour/

酒粕入りガラス「あらやっしゅグレー」の酒器

清酒秋田晴 秋田酒造株式会社
住所:〒010-1631 秋田県秋田市新屋元町23-28
TEL: 018-828-1311
営業時間:10:00〜17:00
定休日:土曜・日曜・祝日
蔵見学:13:15〜14:00(1日1回予約制、土日・祝日・お盆休み・酒造期は除く)
蔵見学料金:1,100円/1人(税込)
公式HP:https://www.akitabare.jp/

2:「天寿」「鳥海山」で有名な[天寿酒造]で蔵人トークと試飲

【アクセス】
JR秋田駅(羽越本線・酒田方面で約1時間)

JR羽後本荘駅(鳥海山ろく線に乗り換え後、約40分)

鳥海山ろく線 矢島駅(駅歩約3分)

[天寿酒造]

秋田駅からは、乗り換えを除くと約1時間40分。JR羽後本荘駅で、第三セクターの鉄道・鳥海山ろく線に乗り換える。鳥海山ろく線は切符も硬券。車両は5種類あり、外観も内装もそれぞれ個性的だ。昭和レトロな車内からは、田園地帯や鳥海山などの景色を眺めることができ、とても絵になる列車。移動から気分が盛り上がる。

鳥海山ろく線の終点・矢島駅から徒歩約3分で行けるのが[天寿酒造]だ。
[天寿酒造]は文政13年(1830年)創業。矢島は東北の霊峰・鳥海山の登山口に位置し、鳥海山の伏流水を使用し、秋田流寒造りで仕込む「鳥海山」や「天寿」は、受賞歴も数多く、秋田の日本酒を全国レベルにした立役者のひとつと言える酒蔵。

観光蔵ではなく、実際の酒蔵の様子が見られる蔵見学をおこなっており、2024年10月からは蔵見学がリニューアル。見学は、試飲とともに訪問記念のお猪口と酒蔵の仕込み水(ペットボトル入り)をお土産として持ち帰ることができるシステム。

入口の直売店で受付し、スタッフが蔵へと案内してくれる。この日は特別に[天寿酒造]の味を担う杜氏の一関陽介さんがアテンドしてくれた。

出迎えてくれた天寿酒造株式会社常務の大井将樹さん(画像左)と杜氏の一関陽介さん(右)

担当スタッフは都度違うとのことで、酒造りの説明やトークの内容もスタッフにより個性があるため、リピートでも新たな楽しみに出合える。運がよければ、杜氏が案内してくれることもあるそうだ。

見学のスタートは水について。外へ出て徒歩数分の位置に[天寿酒造]の井戸があり、汲み上げた水が地中を伝って蔵へ届く。井戸水は鳥海山の雪解け水で、水質は超軟水。シャープな辛口の酒を造ろうとしても穏やかに仕上がるとのことで、水質を生かした酒造りを心がけているという。仕込み、割り水(加水)、洗浄とすべて賄えるほどの量が得られる為、ミネラルウォーターとしても販売している。

その後、現在は瓶貯蔵用の倉庫として使用している「一号蔵」を通ってから、実際に造りの作業をおこなう場所へ。靴を履き換えるので、脱ぎ履きしやすい靴がおすすめだ。

日本酒のもととなる酒母を仕込む酒母室。[天寿酒造]は、速醸・高温糖化・生酛系と酒母の製法のバリエーションが多いが、酵母添加の際、きょうかい酵母以外に「花酵母」が多く使用されるのが特徴。添加する酵母の強さに合わせて酒母の製法を選択したりもしているそうだ。

麹室(こうじむろ)は、大吟醸の出品酒や小仕込み用に使用する室と、レギュラー酒用の室とで、ふたつの麹室を使い分けている。麹室は非常に繊細なため見学で入ることはできないが、麹を冷やす枯らし場は見ることができる。ここでは食米と酒米の違いや、酒用の麹菌の話などを聞くことができ、米を蒸す甑(こしき)や蒸し米を冷やす放冷機など、原料処理の作業場も見られる。

精米も可能な限り自社で行う。精米機も設置されているが、精米所から作業場への移動は雑菌が持ち込まれるリスクがあるため見学は不可の場合も。米は全国新酒鑑評会への出品酒に使用する山田錦以外は基本的に地元産のお米を使うそうだ。

さらにタンクのある仕込み蔵へ。仕込み蔵は計3つあるとのこと。お酒を搾る工程では専用の上槽室が設けられている。

 

今回は取材のため、実際の作業工程とは順序が前後したが、一般の蔵見学の場合は日本酒初心者の人でも醸造のプロセスがわかりやすくなるよう、精米から順を追って見学・説明が受けられる。

見学後は直売店のほうで、お酒の試飲ができる。(時期によって試飲できるお酒は異なる場合もあり)気に入ったお酒については、その場で購入も可能だ。

今回は杜氏の一関さんが見学と試飲の対応をしてくれた

店舗内は取扱商品の種類も多く、贈答向けの箱入りの大吟醸やセットなども豊富だ。枡やお銚子などのオリジナルグッズも購入できる。

見学は予約制。特に秋から春の酒造りの時期は、実際の工程を間近に見ることができる貴重なチャンスだ。酒造りが行われている最中は、基本的に午前に仕込み、午後は原料処理の作業がされていることが多く、見たい工程によって時間帯を選択するのもマニアックな楽しみ方かもしれない。

予約はこちら
https://tenju.co.jp/pages/tour

天寿酒造株式会社
住所:〒015-0411 秋田県由利本荘市矢島町城内字八森下117番地
TEL: 0184-55-3165
営業時間:8:00〜17:00
定休日:土曜・日曜・祝日
蔵見学:10:00〜/14:00~(1日2回予約制、月曜~金曜)
蔵見学料金:1000円/1人(税込)
公式HP:https://tenju.co.jp/

3:「出羽の冨士」の[佐藤酒造店]で貴重な旅のお土産を

【アクセス】
JR秋田駅(羽越本線・酒田方面で約1時間)

JR羽後本荘駅(鳥海山ろく線に乗り換え後、約40分)

鳥海山ろく線 矢島駅(駅歩5分)

[佐藤酒造店]
※[天寿酒造]からは徒歩約5分

矢島駅には、実はもうひとつ酒蔵がある。[天寿酒造]から徒歩5分で「出羽の冨士」を醸す[佐藤酒造店]に行くことができる。[佐藤酒造店]は、明治40年創業。「出羽の国」と呼ばれたこの地域の、名山・鳥海山の秀麗な山容から名づけられた「出羽の冨士」が主力銘柄で、秋田の酒らしい甘みや旨みをバランスよく乗せながらも、すっきりとした後口が心地よいお酒だ。

少数精鋭での酒造りを行っているため、残念ながら一般の蔵見学は受け付けていないが、入口で直売をしているので、定番酒や季節の限定酒などを購入していくことができる。「出羽の冨士」は基本的に地元・秋田での流通が主で、東京などではあまり出合うことのできない銘柄。代表取締役の佐藤さんによると、地元住民はもちろん、「出羽の冨士」ファンの方々は、蔵まで直接買いに来てくれることも多いのだとか。

食卓で毎日楽しめる気軽なお酒から、贈答用にもできるプレミアムなお酒まで扱われているので、矢島まで足を延ばしたときは、貴重な「出羽の冨士」も旅のお土産に、自宅で旅の思い出を堪能してもらいたい。

株式会社佐藤酒造店
住所:〒015-0404 秋田県由利本荘市矢島町七日町26
TEL: 0184-55-3010
営業時間:8:00〜17:00
定休日:土曜・日曜・祝日
蔵見学:現在は不可
公式HP:https://dewanofuji.co.jp/

4:全国区の定番酒「高清水」本社で、酒造りの歴史を垣間見る

【アクセス】
JR秋田駅西口よりバス(所要時間約20分)または、タクシー(約15分)、徒歩(約45分)

秋田駅から3㎞ほどの場所にある[秋田酒類製造]。こちらでは、定番酒として全国でもよく知られている「高清水」を醸している。スーパーやコンビニなどでも見かけたことがあるという人も多いのではないだろうか。

「高清水」には3つの蔵があり、コンセプトによってそれぞれの蔵で酒造りがおこなわれているが、本社であるこの場所には「千秋蔵」と「酒造道場 仙人蔵」という2つの蔵と、「倉//蔵」という売店があり、「高清水」ブランドの約8割のお酒がこの本社のほうで造られているという。

見学は平日のみの予約制。「仙人蔵」の見学が可能で、営業企画部のスタッフがアテンドをしてくれる。クルーズ船のツアーに組み込まれていたりとインバウンド客も多いため、外国語対応可。この日は特別に本社の2つの蔵を担う杜氏の菊地格さんが案内してくれた。

見学ツアーは、まず製造工程の動画を視聴。

「仙人蔵」は、昭和28年(1953年)に建てられた蔵を、柱や梁をそのままに平成17年(2005年)に復活した小さな蔵で、冬場はここで酒造りが行われている。

「高清水」は、昭和19年(1944年)創業。元々は12の蔵がまとまってできた酒蔵なのだが、「仙人蔵」には昔の酒造道具なども展示されている。各酒蔵に残っていた状態のいい道具が集まっているそうで、それぞれ時代も異なるとのこと。歴史的な資料としても価値があり、古き時代の様子を垣間見ることができる。

展示のしかたにも工夫が。一見気づかず見過ごしてしまいそうだが、展示用のカウンターに昔の酒搾りに使われていた木槽が再利用されていたりと、細かい部分まで発見があり楽しめる。

見学後の試飲や買い物は売店の「倉//蔵」で。

サーバーでの試飲とともに、酒造りに使用されている仕込み水も飲めるようになっている。

サーバーのお酒の酒質チェックをする秋田酒類製造株式会社杜氏の菊地格さん

売店は「高清水」ブランドの多くの酒が購入可能で、グラスや枡などをはじめとしたグッズ類や、お酒や酒粕を配合した基礎化粧品類など多彩な商品がラインナップされている。

甘酒やおつまみなどもあり、女性やお酒の苦手な人へのお土産に向くものも豊富なのが嬉しい。

アクセスは秋田駅西口からバスでの移動が可能(路線が複数あるため、都度要確認)。車なら15分弱なので複数人で行くならタクシーも選択肢になるだろう。ちなみに歩いた場合は45分ほどなので、健脚に自信があるようなら遠足気分で片道分散歩してみるのも一興かもしれない。

秋田の地酒-高清水- 秋田酒類製造株式会社
住所:〒010-0934 秋田県秋田市川元むつみ町4番12号
TEL: 018-864-7331
営業時間:10:00〜16:00
定休日:土曜・日曜・祝日
蔵見学:10:30〜/13:30~(1日2回予約制、月曜~金曜)
蔵見学料金:無料
公式HP:https://www.takashimizu.co.jp/

規模も個性もさまざまな酒蔵で旅を楽しんで!

紹介した酒蔵は、同じ秋田県内でも規模やコンセプトなど個性が様々。ひとえに酒蔵といっても、それぞれ違った楽しみ方ができる。見学受付時期や予約方法なども異なるので確認のうえで、秋田への旅の際はぜひ、おいしい酒体験と思い出作りに訪れてみてほしい。


ライター :水戸亜理香
東京在住/日本酒・日本語ライター、日本語教師、日本酒テイスター
日本語と日本酒の「二本(日本)柱」で活動するライター兼教師。好きな銘柄は「やまとしずく」で、秋田県への愛が強め。
酒類以外の趣味は、ファッションと香水。保有資格:SAKE DIPLOMA・日本酒学講師・唎酒師・日本語教育能力検定試験

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