アッサンブラージュは日本酒の“枷”を解く新ジャンル [増田德兵衞商店]増田德兵衞さんインタビュー
複数の酒蔵の日本酒をブレンドするという考えから生まれた、新感覚の日本酒[Assemblage Club(アッサンブラージュ クラブ)]と自分だけのオリジナルブレンド日本酒が作れるスポット[My Sake World]。この蔵を超えた日本酒のブレンドという新しいチャレンジをサポートしてくれる人たちに、今の想いを聞いた。

京都の3つの酒蔵の協力のもとに実現した日本酒[Assemblage Club(アッサンブラージュ クラブ)]や、個人や飲食店、企業がオリジナルブレンド日本酒を作ることができるスポット[My Sake World]。“日本酒のブレンド”という、これまでになかった企画に協力、応援をしてくれる蔵や人に、参加を決めた理由やその後の影響などについてインタビューした。
今回はAssemblage Clubのマスターブレンダーでもある株式会社増田德兵衞商店 代表取締役会長 十四代 増田德兵衞さんにインタビュー。
この方に話を聞きました

- 株式会社増田德兵衞商店 代表取締役会長 十四代 増田德兵衞さん
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プロフィール1955年京都市伏見区生まれ。長年に渡る日本の酒造文化への功績を認められ、2025年旭日双光章を受賞。前・伏見酒造組合理事長を14年間務め、その間にユネスコ無形文化遺産「伝統的酒造り」の登録にも尽力。Assemblage Clubではマスターブレンダーを務める。
銘酒『月の桂』で知られる増田德兵衞商店は1675年(延宝3年)創業。京都・伏見において、最も古い酒蔵の一つである。鳥羽伏見の戦いでの罹災を乗り越え、明治以降は文豪・谷崎潤一郎や永井荷風をはじめとする数々の作家や文化人に愛されてきた。その一方で1964年には日本で初めてのスパークリングにごり酒を発売、さらにいち早く熟成古酒の貯蔵を手がける。また近年では地元である京都産酒米の復活や、低アルコール日本酒へ取り組みなど、常に業界をリードする存在であり続けている。
1 日本酒のブレンドという“新しい発見”

増⽥德兵衞商店・北川本家・松井酒造による酒蔵の垣根を超え誕⽣した⽇本酒ブランド「Assemblage Club(アッサンブラージュ クラブ)」
— 増田さんがマスターブレンダーを務められる、日本酒をブレンドするという新発想の [Assemblage Club]の発端についてお伺いします。
増田さん「アッサンブラージュというのは本来はワインの用語で、毎年同じ味わいに調整するための手法です。消費者にとっては『去年はこんな味だったけれど今年は違ったとなると困る』というのがあるんですね。日本酒の場合も同じ蔵の中で同じ杜氏が作ったお酒をブレンドして商品として作り上げるということはありました。ところが[Assemblage Club]ではまったく違う他社のお酒を、熟成古酒やアルコール度数の違うものまで範囲を広げて、これとこれをブレンドするとこんな味わいに変わるんだという新しい発見を前面に打ち出した。さらにこの手法なら、具体的に料理をイメージしながら合わせることができておもしろいのではないか。そういう考えが[Assemblage Club]のスタートだったんです」
—これまでに例を見ない斬新な手法ですが、増田さんの協力があったことで、ほかの酒蔵さんも協力しやすくなったのではないでしょうか。
増田さん「やはりどこかで日本酒においてこれまであった“縛り”というか、枷みたいなものを解いて、新たなジャンル作りをしていかなければと、ずっと思っていました。ちょうどいい時期だったんじゃないでしょうか」
—マスターブレンダーとして大切にされている思想は?
増田さん「お酒は嗜好品なので、万人向けに作るというより一つ一つの個性をイメージしながら、この料理にはこんなお酒が合うでしょうと提案をして、皆さんの舌に納得してもらうのがマスターブレンダーの仕事と思っています。なかには突拍子もなく、こんなんをブレンドに入れた方が跳んでるよねというか、中庸や真ん中寄りよりもちょっと外れた方がおもしろいものができるというのが僕の感覚なんです。だからブレンドに使用するお酒も、特殊な味わいを持ったものをピックアップして、アクセントにすることが大事だと思っています」
2 [My Sake World]でサプライズを体験
—誰でもオリジナルのブレンド日本酒を作ることができる体験施設[My Sake World]にも訪れていただきました。
増田さん「ああいう実験道具のようなセットを使っての体験って、興味のある人はすごく楽しんでもらえそう。そのうえで自分だけの日本酒を作り上げるという参加意識があるのもいいですね。僕も体験してみましたが、日本酒の味わいにとって酸というのがバランスを取る時に重要な要素の一つだと思っているので、それを考えながら組み立て、後はやわらかさや後半の引きを加味しながらブレンドしてみました」
—御社の『抱腹絶倒』は使用されましたか?
増田さん「ほかのお酒をベースにして、ちょっと加えた程度にしました。うちの『抱腹絶倒』のように若干アルコール度数が低くて酸の効いたタイプの日本酒が最近増えてきましたし、[Assemblage Club]でブレンドの研究を始めた頃、低アルコールのお酒を少し加えることによって味わいのバリエーションの底辺が広がるような印象があり、そこは意識しています。それから古酒ですね。古酒をアクセントとして使うことで深さとボリューム感が出せるというのもブレンドによるサプライズの一つでした。新鮮なおもしろさがありましたね」
—古酒といえば、増田さんは熟成古酒に注目する蔵元によって設立された『刻(とき)SAKE協会』の代表理事としても活躍しておられます。
増田さん「『刻(とき)SAKE協会』には日本酒の蔵12社が加盟しているのですが、今、そのうちの数社の熟成古酒をブレンドして製品化する試みを始めています。僕だけではおもしろくないので、輿水精一さん(サントリースピリッツ株式会社名誉チーフブレンダー)にも指南役になっていただいたり。世界のアッパー層にも認められるようなものをと思っていますが、価格はあくまでも食中酒として楽しめる程度で考えています」
— なるほど、熟成古酒においてもブレンドという手法にスポットライトが当たっているのですね。
3 新たな杜氏を迎え、手造りに原点回帰
—それでは最後に、今取り組まれていることについてお教えください。
増田さん「2024年より新たな杜氏を迎え、酒の味わいが少し変わりました。合わせて、これまで少し機械化していた部分を手作りに戻しています。具体的には、酒造りの心臓部である麹造りですね。昨年度、日本の伝統的酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、その元となる麹を原点から見直そうという流れです」
—まだまだ、酒造りへのこだわりは尽きないのですね。本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。
話は日本酒文化や歴史にもおよび、時折脱線しがらも楽しいインタビューの時間だった。増田さんの言葉で特に印象的だったのは「変なこと、みんながしないことをしよう。挑戦なくして成功はない」。もともと増田德兵衞商店は、日本初のスパークリングにごり酒の開発や熟成古酒に先駆けて取り組んできた、伝統がありながら先取の気風みなぎる酒蔵。日本酒の歴史に新たなジャンルとして加わった“ブレンド”という手法に、これからも注目したい。
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ライター・唎酒師 藤田えり子
大阪の日本酒専門店に世界を広げていただき、さまざまな日本酒や酒蔵に出合う。好きな日本酒は秋鹿、王祿ほか
お酒以外の趣味は鉱物集めとアゲハ蝶飼育。

増田德兵衞商店
- 創業
- 1675年
- 代表銘柄
- 月の桂
- 住所
- 京都市伏見区下鳥羽長田町135Googlemapで開く
- TEL
- 075-611-5151
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 4月〜9月 土・日曜、祝日休 10月〜3月 日曜、祝日休