酒蔵に聞く

江戸時代創業、福岡県博多唯一の酒蔵[石蔵酒造]伝統と進化の軌跡を聞く

博多駅から徒歩20分。福岡の中心地で地域に密着する酒蔵[石蔵酒造 博多百年蔵]百余年にわたって博多で唯一の造り酒屋。“伝統を守りつつ進化し続ける秘訣について”石蔵専務にインタビューした。

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福岡市博多区といえば、九州の玄関都市。博多唯一の酒蔵[石蔵酒造]はその地に江戸時代中期から地域に根差す酒蔵として昔ながらの伝統を守りながらも、時代に即した進化をし続けている。その秘訣を「石蔵酒造株式会社 専務 石蔵 利憲氏にインタビューした。

この方に話を聞きました

石蔵酒造株式会社 専務取締役 石蔵利憲さん
プロフィール
福岡県福岡市出身。一橋大学法学部卒。会社勤務の後、酒類総合研究所での研修を経て石蔵酒造株式会社に入社。杜氏・蔵人とともに、より美味しい博多の地酒を目指して、酒造りに取り組んでいる

江戸時代中期から現在まで博多の歴史とともに生き続けてきた軌跡

―石蔵酒造の歴史について教えてください

石蔵さん「江戸時代には石蔵屋と呼ばれていて、黒田藩の御用商人として廻船問屋を営んでいたんです。壱岐・対馬からクジラの油(昔は田に害虫除けで蒔いていた)を買い付け、商いしていたそうです。酒蔵としては、商売の副業として酒造りをしたのが始まりです。現在の場所は、元々第二酒造場でした。第一酒造場は神屋町という、現在の博多小学校の近くにありましたが、昭和20年の福岡空襲で焼け落ちてしまいました。この場所は、奇跡的に空襲の被害を受けなかったために古い建物がそのまま残っているのです。」

―歴史が感じられるエピソードですね。その後は、どのような発展をされてきたのですか?

石蔵さん「かつて酒蔵は、博多に10数カ所くらいありましたが、昭和50年くらいをピークに日本酒の需要は年々少なくなって、ひとつまた一つと無くなっていき、結果としてここが博多唯一の酒蔵になったというわけです。昔のお客様は、町の酒屋さんでした。酒屋さんがコンビニやドラッグストアに変化していき、取引先が減少。会社の存続のためには、事業内容を変えていかなければいけなくなりました。酒造りを縮小してお客様のニーズに応えながら、会社の存続をしてきました。おかげさまでたくさんの方々に来店していただけるようになりました。」

―お客様からどのような声が寄せられたのですか?

石蔵さん「たとえば、『ここで食事が出来るようなスペースがあればいいのに』と言ってくださったり、『イベントやコンサートをさせてほしい』、『美味しいお酒と食事で結婚式をしたい』さまざまな要望を真摯に受け取って、新しい事業を進めてきました。」

―お客様が使用する部屋は、内装が古風であり、モダンですね。天井の照明や小さなの細工など凝ったものが多い印象ですが、デザイナーさんが入っておられるのですか?

石蔵さん「社長と昔から付き合いのある設計士さんとで、話し合って創られたものです。社長は、モダンなデザインなどが好きな方なのです。お客様が過ごしやすく、落ち着くイメージになっています。この施設には、多種多様のお客様がいらっしゃってくださいます。時代に合わせて変化し続けています。変化したからこそ、改めて博多唯一の酒蔵として恥じないお酒造りをしていく必要ができたのです。」

福岡の食文化を生かす食中酒

―酒造りにおいて、材料などのこだわりや特徴はどのようなものでしょうか?

石蔵さん「福岡という地は、有り難いことに全国でも有数な酒米の産地です。糸島の山田錦、福岡生まれの夢一献などを使用しています。また、酒造りにはおいしい水が必須です。敷地内に3本の井戸を持っていて、その水は今も湧き続けています。『千代の松原水』と呼ばれた地下水です。ただ、都市部の井戸ということで、どうしたら安心で安全に利用できるかを考えて、精密ろ過することで純水にしています。」

▲写真の井戸は、4本目で直売所の中庭にあるもの。

―石蔵酒造のお酒の特徴は?

石蔵さん「福岡は、食べ物が何でも美味しい処です。食文化を活かす、同じ土地で造られているお酒という感じでしょうか。お刺身なども捕れた場所のお醤油が合うのと同じですね。」

歴史ある建物から、迷ってしまいそうな細道を通って別のエリアへ。コンパクトな施設にこだわるのは、この地で酒造りを続けることを重んじているから。博多でどのようにして、酒造りをしているのか見学させてもらった。

―この建物が現在の酒造場なのでしょうか?

石蔵さん「平成27年、白壁蔵という名前でこの施設は新しく建てたものです。博多のこの地でこれからも地酒を造り続けるために創られました。酒蔵としては、規模は小さめですが繊細な仕込みの温度管理を可能とするサーマルタンク(タンク個々での設定可能)や除湿空調機能のある麹室を備えています。この蔵で、総米400kg~800kgの小さな仕込みを1年中繰り返すことで、常にフレッシュなお酒を提供できるようにしています。」

石蔵さん「このタンクは大吟醸を仕込んでいます。約1ヶ月間発酵させます。香りを試してみてください。別のタンクのしぼりたても試してください。醸造の仕方や酵母の種類によって見た目も香りも違った出来栄えになりますよ。」

大吟醸は甘酒のような芳醇な香り。お米のつぶつぶ、粘度が高い見た目だ。またしぼりたては、大吟醸に比べるとすっきりとした香り。爽やかで、触らなくてもサラサラした液体感が分かる。

酒造りは随所にこだわりが感じられる。洗米の工程では、お米に吸水する時間を秒単位で計算して、測りながら作業しているのが印象的だった。醸造に関わるスタッフは、全員分析ができ、分析の結果を踏まえて温度や吸水、発酵を計算して醸している。タンクの温度管理といい、繊細に計算されて酒造りが行われている様子が伺えた。

おすすめの銘柄と特徴について

おすすめの銘柄を3種紹介。

■純米大吟醸 百年蔵(写真真ん中)

精米歩合40% 山田錦100%
アルコール度数16%
720ml/3,850円(税込)

看板商品の1本で2023年に純米大吟醸の部で福岡県知事賞を受賞している。長期低温発酵で大吟醸の香り高い味わいと豊かな風合いが特徴。

■純米吟醸 百年蔵 F44(写真左)

精米歩合55% 山田錦/夢一献
アルコール度数15%
720ml/1,815円(税込)

Kura Master日本酒コンクール純米酒部門4年連続金賞受賞。福岡の限定酵母44株を使用している。酸味が特長の酵母を使用することでキリッとした味わいと穏やかな香りが感じられる。

■スパークリング清酒あわゆら(写真右)

精米歩合70%福岡県オリジナル酵母「ふくおか夢酵母」
アルコール度数7%
250ml/638円(税込)

爽やかな酸味と優しい炭酸がマッチした女性に人気の商品。

地域の想いを大切に

―今後の取組や展望について教えてください。

石蔵さん「これからもお客様の声に応えながらここで酒蔵を続けていくことです。そして、石蔵酒造がここにある風景が普通と思ってもらうこと、無くなってしまったら寂しいと思ってもらいたいです。そのためには、新しい情報を発信していくことも大事にしていきたい。たとえば、新酒が出来ましたとか、蔵開きなどのイベント情報とか。だから、今回の取材はとてもうれしかったです。」

これからも博多の町に根差した石蔵酒造の今後の取り組みに注目していきたい。


ライター:シヴァ
福岡県在住/保育士・Webクリエイターエキスパート所持・IT講師
地域ブログ運用、社内報特派員を経て、フリーライターに転身。電子書籍「子どもの心配をやめたら自分も子どもも自立した話」は、Amazon Kindleキャリア部門1位獲得。好みのお酒は、モダンでもしっかりとお米の旨味が感じられるタイプ。趣味は家飲み、ゲーム、推し活、読書、旅行

石蔵酒造株式会社

石蔵酒造株式会社

創業
江戸時代後期
代表銘柄
博多百年蔵・如水
住所
福岡市博多区堅粕1丁目30-1Googlemapで開く
TEL
092-651-1986
HP
https://www.ishikura-shuzou.co.jp/
営業時間
製造直売所 11:00~17:00
定休日
火曜日(1月1日~3日・8月13日~15日)

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