【今さら聞けない教えて!?シリーズ21】分析と調合について
酒母(酛)や醪、上槽後のお酒の成分をそれぞれの段階で測定し、数値を割り出すことを分析と言います。 異なる性質のお酒を混ぜ合せたり、加水したり、濾過したりすることを調合と言います。今回のテーマは分析と調合について
醸造とは? という問いに、私はいつも「愛と化学と情熱を折り重ねることよ!」と答えます。化学と微生物学に基づき、コンマ以下の計算が付きまとう酒造りですが、化学的な部分は、伝統文化、伝統産業、という言葉や、製麹(せいきく)、酛摺り(もとすり)といった独特の作業名の奥に押しやられているように思います。
今回は、“ 分析 ” “ 調合 ” という、化学の存在を感じ取れる工程を解説いたします。
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ20】さまざまな「生」について
この方が解説します

- 杜氏屋主人・プロデューサー中野恵利さん
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プロフィール1995年、大阪・天神橋筋に日本酒バー「Janapese Refined Sake Bar 杜氏屋」を開店。日本酒評論家、セミナー講師、作詞家としてさまざまな分野で活躍。
● 分析 ~官能を計る
分析は、官能評価、官能検査といった、人が唎酒によって感覚で得た情報以外に、化学的に本質を明らかにする工程です。
成分を測定し、比例・比率・割合を数値化することによって、お酒のプロポーションを化学的に捉えることが出来ます。分析によって得た数値が、酒造工程の様々な局面はもちろん、上槽後の貯蔵や調合にも役立てられます。
分析については、このシリーズの13話『醪の管理について』でも触れましたが、醪や搾ったお酒を定められた測定法で数値化することは、色や濃度、香りや味わいの表現に共通言語を持たせることです。
分析は、日本酒度やアルコール度数、アミノ酸度や酸度、香気成分など、計測の対象となるものによって、浮秤や振動式密度計、pH指示薬、ガストロマトグラフ質量分析計などを使い分け、行われます。目や鼻、舌で得た情報を数字で表すことで認識のズレや誤解を防ぎ、酛(酒母)や醪の進捗状況を可視化することができます。これによって、早期に問題を発見し、修正することが可能となるのです。
また、上槽後、目指す酒質にするために、何と何をどんな割合で混ぜ合せるかの指標となるのです。
● 調合~異質の融合~
調合の目的は、品質の均一化と調整、香味の安定化を図り、複数のタンクから異なる性質のお酒を混ぜ合せ、お酒を完成させることです。
「えっ!?日本酒って一つのタンクから出来てるんじゃないんですか?」私がお酒の調合についてお話しすると、多くの方が驚きの言葉を発します。微生物の営みによって得た、無数の有機酸で構成される日本酒。同じ原料、同じ配合で仕込んでも、醪はタンクごとに違った育ち方をします。でも、これってもしかしたらあまり知られていないことなのかしら?
調合 = ブレンドです。ブレンドと言う言葉は、どうもウイスキーにのみ採用される方が多いようですが、日本酒もまた、ブレンドによって、化学と人の感覚を融合させ、微差を許さない、考えうる最も完全なものに仕上げているのです。
でも……
「ブレンドって憧れます!うちはどのお酒もタンク一本でやってますから」
「一本一本が自信作って素晴らしいじゃない!」
「いやいや、自信がなくても一本でやるしかないんですよ。いっぱい仕込む余裕がないんで、(笑)」
なんて、謙遜を交えたユニークな言葉で現状を伝えてくれる蔵元さんもいらっしゃいます。
● 愛と化学と情熱と……
お酒となって瓶に詰められ、出荷されるまでに、酒母、醪、上槽後、それぞれの段階で何度も行われる成分の検査。タンクの中身をこまめに検査する様子は、子供の頃の身体測定を思い起こさせます。
杜氏や蔵人は、子供の成長を見守り、記録する人と同じように、米を酒へと育てていきます。
“ 醸造とは、愛と化学と情熱を折り重ねること ” と答える私の気持ち、お解りいただけましたでしょうか?
前回:【今さら聞けない教えて!?シリーズ20】さまざまな「生」について








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