蕎麦をたぐる前にアテとお酒を一、二杯楽しむ「蕎麦前」。もとは関東の文化だけど関西でも飲める蕎麦屋が増えつつあるなか、まず名前があがるのが京都河原町の柳小路に佇む［そば 酒 まつもと］だ。自らも大の日本酒好きという店主の松本さんに、日本酒の魅力について尋ねてみた。

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松本宏之さん

プロフィール

東京出身の同級生の影響で蕎麦の美味しさに目覚める。寝袋持参で全国の蕎麦巡りも経験。北山の名店で6年間、他店で6年と蕎麦打ち修業を重ね、2013年に独立。

1.日本酒も肴も、もちろん蕎麦も大満足

今年で10周年を迎え、他府県から足を運ぶ客もちらほら。飲みたくなるアテといいあんばいの燗酒でほろ酔い気分、締めのもり蕎麦まで存分に堪能できる。米のうまみをもつ濃醇なお酒を中心に揃え、料理や飲む者の進み具合によって燗の付け方を変えるなど気配りは細やか。アンティークや作家ものの器使いにもこだわりを感じさせる。

燗を付けて温めて飲むのは日本酒の特色。それが燗名人の手にかかれば、同じ銘柄でも割水燗などのアレンジ次第で、味わいの変化が楽しめるのが魅力という。また食べながら飲む文化があるのも日本酒の良さだ。松本さん自身、うちではもっぱら燗酒を楽しむ。「安心するし、体が楽なんです」。

2.この冬飲みたい燗酒5選

レギュラーは大阪能勢の秋鹿を筆頭に9蔵。そのほか季節のお酒を加え、約20蔵を扱う。「派手なお酒はないですね、燗でも冷酒でも飲めるしっかり目のお酒ばかり、いわゆる食中酒です」。
今回は燗酒をメインに5選セレクトしてもらった。

辨天娘　純米吟醸　H29BY
太田酒造場（鳥取県）、950円（7勺）、アルコール度数15度以上16度未満、精米歩合55%

ほどよく熟成された一本。蔵と同じ若桜町産の玉栄100%使用。「純米吟醸酒ですが、比較的香りは少なくて、余韻の伸びがよいお酒です。きれいで厚みがあります」

睡龍　純米　涼　平成29年度醸造、2017BY
久保本家酒造（奈良県）、850円（7勺）、アルコール度数14度、精米歩合65%

「ある程度寝かせているお酒ですが、飲み口が良い。食べながら何杯か飲んだ後でも飲みごたえがあって、キレもある。重たい感じのないお酒ですね」

秋鹿　純米酒
秋鹿酒造（大阪府能勢町）、850円（7勺）、アルコール度数14度、精米歩合75%

「秋鹿さんは昔から仲良くさせていただいている蔵です。この『稲穂』ラベルはさっぱりめのレギュラー酒なので、蕎麦などの穀物や鳥や野菜料理に合いやすいと思います」

天穏　生酛にごり
板倉酒造（島根県）、850円（7勺）、アルコール度数15度、精米歩合70%

「燗酒と冷酒の枠の境目みたいで、バランス感覚の良いお酒を作らはるなというイメージ。特ににごりは燗でも美味しいし、柔らかい白米を食べているようでなんでも合いやすい」

群馬泉　山廃酛純米
島岡酒造（群馬県）、850円（7勺）、アルコール度数15度、精米歩合60%

「季節ものや生酒を造らない、10種類もないくらいの珍しい酒蔵さん。味や方向のブレもない。これも派手ではないけれど味に奥行きがあり、安心して飲めるお酒だと思います」

3.思わず日本酒が飲みたくなる肴の数々

蕎麦前にありがちな板わさなどは置かず、お腹にたまらずひと口ごとにお酒を飲みたくなる手の込んだ酒肴を揃える。蕎麦は季節によって最適の産地から取り寄せた粉で手打ち。蕎麦自体の甘さがボケるので、つゆに甘味を付けないのが特徴だ。

しめさば　1300円

この季節は淡路のサバを使用し、脂は控えめ。味が濃く鮮度が良いので、塩で軽く締め、提供の際に合わせ酢を掛けるだけに。

カニ味噌どうふ　550円

裏漉ししたカニ味噌を合わせた玉子豆腐風の一品は名物料理のひとつ。仕上げに塩気とコクを加えるパルミジャーノチーズをふわり。

もりそば930円

その日の朝に手打ちする十割そば。つゆの出汁は鰹節のみ、かえしは4種をブレンドした醤油と白みりん少々でキリッとしまった味。

4.蕎麦前を粋に楽しむならこんな店で

これからの季節飲みたいのは、「毎年、11月末から12月頃に届く秋鹿の超辛口直汲み生酒。タンクに移さず搾ったそのままを瓶詰めした酒で、いつも楽しみにしています」。カウンターは7席のみで予約が確実だけど、ふらっと立ち寄ってもらえるように数席は空けてあるそう。
ちょっと粋な大人の楽しみが蕎麦前。酒・肴・蕎麦の三拍子揃ったこんな店なら、大いに堪能できそうだ。