酒蔵に聞く

滋賀県[岡村本家]で精米歩合の違いを楽しむ!
営業をしない酒蔵が進める取り組みと展望を取材

[岡村本家]は安政元年(1854年)、彦根藩主井伊家より酒造りを命じられ創業。銘柄の「金亀(きんかめ)」は彦根城の別名である「金亀城(こんきじょう)」に由来する。
「金亀」は精米歩合に分けられた商品展開が特徴であり、20%〜100%(玄米)までとその幅は広い。米の磨きに主軸を置いたラインナップを通して、視覚的にも味覚的にも分かりやすく日本酒の魅力を発信しているのだ。

岡村本家メイン
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[岡村本家]は長年に渡り、営業活動を一切行うことなく商品認知度を向上させてきた。インターネットが発達した現在であれば、こうした手法は珍しくないかもしれない。しかし、[岡村本家]が営業活動を廃止した時代は昭和後期。インターネットはもちろん、携帯電話も普及していない時代から商品力に重きを置いたマーケティングを展開してきたのだ。

実際に蔵へ足を運んでもらい、周辺地域を知った上で「飲んで美味しい」と思ってもらう。こうした取り組みを進める中で重要となるイベントが、春と秋に酒蔵で実施している「酒蔵祭り」だ。

本記事では2024年10月26日(土)27日(日)に開催された「第31回秋の酒蔵祭り(※1)」の様子と同時に、[岡村本家]の取り組みと商品の魅力、そして今後の展望について取材した。

※1:会場では「酒蔵開き」と表記変更

株式会社岡村本家 6代目蔵元 岡村博之さん(左)
級別時代の価格競争に見切りをつけ営業活動の中断を決意。現在も営業を行うことなく、蔵と日本酒の品質を重視した訴求を続ける。

株式会社岡村本家 杜氏 園田睦雄さん(右)
5代目蔵元時代より杜氏として酒造りの舵を取る。能登流の技術を現在に受け継ぎ、他蔵との勉強会も行っている。

営業をやめてスタートした酒蔵見学とイベント

金亀イベント

酒蔵祭りでは、蔵の中で全銘柄の無料試飲が可能。気に入った銘柄があれば、イベント会場で1杯200円〜注文し、ゆっくりと楽しめる。もちろんお土産として購入することも可能だ。

イベント限定酒や量り売り、地元や県外飲食店によるフード提供、チームの方々による展示など、ここに来なければ楽しめない催しが目白押し。県内外から集まる多くの来場者で大きなにぎわいを見せる。

「わたしが蔵に入った当初は積極的に営業周りをしていましたが、試飲サンプルを渡しても飲んでもらえないばかりか、価格を付けて店頭で販売されるお店もありました。80%精米を発売しても『高精白時代に逆行している』と言われ、見向きもされませんでした。こんなことをしていても無駄だと思い、思い切って営業活動をやめたんです。でも売りに行かなければ売上がなくなることは明白でした。そこで先代に蔵を使わせてほしいと相談し、試飲してもらって美味しかったら買ってもらうという手法に切り替えたんです」と6代目蔵元の岡村博之さんは話す。

献杯の様子

こうした取り組みの中で、年に2回実施する「酒蔵祭り」もスタート。現在、主力銘柄にある玄米100%の商品も顧客とのやり取りで生まれたそうだ。

岡村さん「80%、90%と商品を展開していくなかで、『次は100%やな!』という意見がありました。お客様からそう言われるまで、玄米100%はできないという先入観がありましたが実現できました」

営業をしない岡村本家だからこそ、蔵を訪れる顧客との距離が近い。イベント中も積極的に来場者たちと交流し、同じテーブルを囲んで話をする岡村さんの姿が印象的だった。

ペアリング

今回は初の試みとして、「金亀」の各銘柄に合わせたペアリングメニューが提案された。

色々な組み合わせの中から、比較的辛口に分類される「緑 60」と「肉寿司」を合わせてみた。お米と肉の旨味が同調した後、爽やかな酸味で軽やかに切れ抜群に美味しい。お酒と料理を組み合わせることで、それぞれの味わいはより一層深くなる。60×肉寿司

酒蔵から最寄り駅までは距離があるが、近江鉄道豊郷駅とJR稲枝駅からは無料送迎バスが出ているため遠方からの参加者も安心だ。

精米歩合で日本酒の魅力を表現!

精米歩合のラインナップ

「岡村本家が造る一番の特徴は、精米歩合別にお酒を造ることです。使用するお米の良さを引き出すために、精米歩合に応じてお米と酵母を選定しています」と杜氏である園田さんは話す。

精米歩合とは玄米の表面をどれだけ“磨いたか”を指す言葉である。つまり、精米歩合60%であれば、玄米の表面40%を磨いたことになる。これだけ表面を磨く理由は、玄米の表層に含まれる脂質やタンパク質を取り除き、すっきりと洗練された香味を生み出すためだ。

一般的に口にする食用米の場合、脂質やタンパク質は旨味として重宝されるため精米歩合は90%前後になることが多い。このことを考えると、日本酒造りがいかに玄米を磨いているかが分かるだろう。

園田杜氏

園田さん「削ったお米はぬか漬けや飼料、油やせんべいなどに再利用されるため、酒粕も含めて酒造業は捨てるところがないと言われています。しかし、社会の流れとしてなるべくお米を削らない酒造りに注目が集まりつつある。その中で玄米100%の酒造りに取り組む蔵は増えてきました。『今までのお酒と少し違う』と言われることもありますが、精米歩合によって生まれる特徴の違いを体験していただきたいですね」

今季の造りより、20%〜100%のラインナップに加えて、10%精米の商品を新たにリリースする予定となっている。

Sake World NFTに登場する日本酒の紹介

sakeworld取り扱い銘柄

2024年10月時点において、Sake World NFTでは上記5銘柄がラインナップしている。精米歩合20%の大吟醸から、玄米を使った銘柄と精米歩合で変わる味わいを存分に堪能できる。

Sake Worldが取り組むマイナス5度での零下熟成について、園田さんは以下のように話す。

「日本酒を一定期間寝かせた熟成酒には、フレッシュな味わいや香りを持つ新酒とは違った魅力があります。様々な熟成方法がある中でも現在、マイナス5度といった零下熟成に注目が集まりつつあります。この温度帯では酵素の動きが抑えられるため、比較的に穏やかに熟成が進むんです。熟成感が強く出すぎず、うまくまろやかな味がのります。酒造りの段階で熟成を意識してあえてあっさりと造り、1年、2年後にピークを持ってくるという技術も存在します。岡村本家では0度以下での貯蔵はしていましたが、マイナス5度は未経験。熟成に耐えられる酒質を持っていますので、これからどういった変化が生まれるのか楽しみです」

 

長寿金亀 赤玄米酒 生原酒

商品名:長寿金亀 赤玄米酒 生原酒
参考価格:720 ml 2,200円〜
特定名称:純米
原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
使用米:吟吹雪
アルコール度:14%
酵母:協会7号

精米歩合100%=玄米をそのまま使用した、全国的にも珍しい純米酒となっている。せんべいのような穀物感と同時に、クッキーのような甘やかさを感じる香り。濃厚な米の甘みと旨味がダイレクトに感じられるが、以外と軽やかに楽しめる。

 

商品名:長寿金亀 白80 生原酒
参考価格:720 ml 1,265円〜
特定名称:純米
原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
使用米:日本晴
アルコール度:16%
酵母:協会7号

精米歩合80%とお米の大部分を残した銘柄。炊きたてのご飯のようにふっくらとした旨味を連想する香り、こってりとした甘みが楽しめる。甘口タイプが好きな方におすすめしたい1本。

商品名:長寿金亀 緑60 生原酒
参考価格:720 ml 1,485円〜
特定名称:純米吟醸
原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
使用米:玉栄
アルコール度:17%
酵母:滋賀県開発酵母

60%は純米吟醸酒、吟醸酒を名乗るために最低限必要となる精米歩合。リンゴや洋梨といったジューシーなフルーツを連想する吟醸香が楽しめる。味わいは程よい旨味とシャープな酸味が特徴。辛口タイプとして幅広い料理に合わせられる。

商品名:長寿金亀 藍40 生原酒
参考価格:720 ml 2,750円〜
特定名称:純米大吟醸
原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
使用米:吟吹雪
アルコール度:16%
酵母:広島酵母

純米大吟醸を名乗るために必要となる精米歩合50%を下回る銘柄。「緑60」よりも吟醸香が力強く感じられるがくどくない。味わいも旨味をしっかり感じられる、バランスの取れた純米大吟醸酒だ。

商品名:長寿金亀 黒F20 生原酒
参考価格:720 ml 5,500円〜
特定名称:純米大吟醸
原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
使用米:吟吹雪
アルコール度:16%
酵母:滋賀県開発酵母

岡村本家のラインナップの中で最もお米を削った銘柄。精米歩合20%は超高級酒に匹敵する高精米だ。透明感のある綺麗な香り、味わいとなるがしっかりと芯が通っている。贈答用はもちろん、日常のちょっとした特別なシーンでも楽しみたい。

⋱精米歩合の違いを楽しむ!⋰

 

和気あいあいとした[岡村本家]ならではの魅力

今回の「第31回秋の酒蔵祭り」が行われるおよそ2週間前の10月12日、5代目蔵元である岡村多内さんが90歳でお亡くなりになった。昭和から平成にかけて日本酒業界が大きく変化する時代をくぐり抜け、後世に繋いだ父親の話をする6代目蔵元の岡村さんは時折涙ぐむ場面も。

岡村さん「『日本酒が売れない。酒蔵も老朽化している。後継者問題もある。何度も廃業を考えたことがある状況だが、引き継ぐか考えて欲しい』と父に言われるまで、家業がそんな状態だったとは知りませんでした。そんな状況でも気丈に振る舞い続け、生前楽しく過ごせて来れたのもお客様やお付き合いを頂いた皆様方のおかげです。これからも社員、家族一同、父の思いを胸に刻み続けて行きたいと思います」

岡村本家 金亀

今回の酒蔵祭りは忌中での開催となったが、賑やかなことが好きであり、イベントを心待ちにしていた故人も中止を望んでいないと判断して実施されたという。多くの来場者が岡村さんの講演中、先代の思い出話しに聞きっている様子からも、いかにファンに愛されている方であったかがうかがえた。

[岡村本家]は通常の営業活動ではなく、人と人の繋がりで現在の立ち位置を確立した。イベント全体の和気あいあいとした雰囲気は、長年の取り組みによって生まれたものだろう。精米歩合という視点から広げる独自の魅力を通して、今後もより多くのファンを生み出すことになるはずだ。


ライター :新井勇貴
滋賀県出身・京都市在住/酒匠・唎酒師・焼酎唎酒師・SAKE DIPLOMA・SAKE検定講師
お酒好きが高じて大学卒業後は京都市内の酒屋へ就職。その後、食品メーカー営業を経てフリーライターに転身しました。専門ジャンルは伝統料理と酒。記事を通して日本酒の魅力を広められるように精進してまいります。

岡村本家

岡村本家

創業
1854年
代表銘柄
金亀 大星
住所
滋賀県犬上郡豊郷町吉田100Googlemapで開く
TEL
0749-35-2538
HP
https://kin-kame.co.jp/
営業時間
9:00〜17:00
定休日
年中無休

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